医療法人登誠会諏訪マタニティークリニック
1996年12月5日作成
2009年4月1日改定
「代理出産」に関する国の法律は未整備のため、当病院では下記のガイドラインを独自に策定し、患者(依頼者)ご夫婦と代理母、さらには双方のご家族にも了解し、宣誓していただいた上で実施します。
※「代理懐胎」という呼び名もありますが、当病院では「代理出産」と呼ぶことにします。
第一項:代理出産とは
代理出産には、下記のようにいくつかの方法があります。
1.体外受精による代理出産
1-A.依頼夫婦の受精卵を使った代理出産
依頼夫婦の精子と卵子を体外受精させてできた受精卵を、第三者の女性(代理母)の子宮に移植して子どもを得る方法。この場合、依頼夫婦と生まれた子との遺伝的つながりは保たれる。
1-B.第三者の精子または卵子を使った代理出産
依頼夫婦の精子または卵子を、第三者の卵子(代理母とは異なる女性の卵子)または精子とを体外受精させて受精卵をつくり、それを第三者の女性(代理母)に移植して、子どもを得る方法。この場合、依頼夫婦と生まれた子との間の遺伝的つながりは、夫婦どちらかにはあることになる。
1-C.第三者の受精卵を使った代理出産
精子も卵子も第三者のものを体外受精させて受精卵をつくり、それをさらに別の第三者の女性(代理母)に移植して、子どもを得る方法。この場合、依頼夫婦や代理母と、生まれた子との間に遺伝的つながりはない。
2.人工授精による代理出産
歴史的には最も早くからおこなわれてきた代理出産。依頼夫婦の夫の精液を、第三者の女性(代理母)の子宮に注入(人工授精)して、子どもを得る方法。この場合、子どもの遺伝上の母親は代理母となり、依頼夫婦と生まれた子との間の遺伝的つながりは、夫のみが持つ。
以上のうち当病院では、当面は「1-A」のみをおこなうこととし、以下述べる「代理出産」も「1-A」のみを指すことにします(そのほかについては今後の課題とします)。
第二項:実施対象となり得る方
下記のすべての条件を満たす場合を対象とします。
<依頼者>
1.婚姻を結んでいる夫婦で、妻は45歳までの場合と限ります(通常でも女性が45歳以上の場合の妊娠は皆無に近いことと、出産したとしても子どもが成人になるまでに夫婦が養育できるか体力的・経済的にもリスクが高いと考えるためです)
2.妻は、先天的もしくは後天的に子宮のない女性と限ります(ロキタンスキー症候群、子宮摘出術などを受けた方など)。子宮はあるものの母体疾患等により妊娠・出産が不可能というケースの対応については、今後の課題とします。
<代理母(産みの親)>
1.当面は、依頼夫婦の妻の「実母」で、原則として60歳前後までの方とします(代理母の健康状態により年齢は多少の増減あり)。法整備や補償制度のない現状において、代理母を実母とするのが最もトラブルやストレス等が少ないとの考えから。
2.代理母は、金銭や、生まれてくる子どもへの権利などを要求せず、あくまでボランティア精神で臨むこと。また依頼者からの強要は受けていないこと。
第三項:手続き
1.医師やコーディネーターは、依頼者・代理母・ご家族に対して、施術の内容について十分なインフォームド・コンセント(説明と理解と合意)をおこないます。また、施術の危険性や問題点(障害児が生まれる可能性、特に代理母が高齢である場合の体への影響など)についても説明し、その場合の対応について依頼者・提供者・ご家族であらかじめ十分に話し合っていただくよう要請します。
2.当病院での代理出産は、あくまでも代理母のボランティア精神と、それを感謝する依頼夫婦との信頼関係・責任のもとで実施されることとします。依頼夫婦が代理母に金銭を提供する場合は、必要経費(診察費や交通費)や謝礼の範囲にとどめます。
第四項:親子の法的関係について
代理出産により生まれた子どもはいったん代理母(産みの親)の子として出生届けを出し、その後に依頼夫婦の子として養子縁組します(現行の民法や判例では、子どもの母は「産んだ女性」、父は「その女性の夫」と定めています。そのため、現在はこのような対応をとらざるを得ません)。
ただし最近のケースでは裁判所の判断により、「普通養子制度」ではなく「特別養子制度」が適用されました。この場合、戸籍には依頼夫婦の「長男」「長女」などと実子と同じ記載がされるので、養子であることは一見は分かりにくくなり、また実子同様の扱いとなります。
※ガイドラインは、国の法整備や諸状況の変化などを踏まえ、また当病院の倫理委員会にて見直しの必要性を受け、適宜改定をおこなうものとします。
代理出産に対する心得
代理出産に臨まれるご夫婦・代理母とご家族の皆様
このたびさまざまなご事情の上に、強いご意思とご希望を持って、ご家族が一丸となって代理出産に取り組まれることと存じます。
しかし、代理出産に関しては現在国の法律もなく、是非の議論がなされている最中であり、実施にあたっては皆様にご留意いただきたいことが多々あります。
つきましては、「代理出産ガイドライン」と併せてこの「代理出産に対する心得」もお読みいただき、代理母となるお母様と娘さん、それを支えるご家族の方々、それぞれが代理出産に取り組むにあたっての決意と責任、さらには信頼関係についてもご確認いただきますようお願いします。
新しい尊い命を溢れる愛情を持って育てられる日を迎えられますよう心より祈念し、当病院も医療機関として全力でサポートさせていただく所存です。
1.医療の進んだ現代においても、いまだ妊娠出産には危険が伴います。代理母ご自身で自分の体を大切になさることはもちろんですが、その上でも、流産、子宮外妊娠、子宮破裂、羊水塞栓症、常位胎盤早期剥離などの重篤なリスクがあることも十分認識して代理出産に取り組むことを、ご家族でご確認ください(通常の妊娠出産においても避けられない事態は起こり得ます)。
2.万が一そのような事態が起きた際は、代理母・胎児の双方の命を救うことに全力を尽くすことは当然ですが、当院は二者択一の場合には代理母の命を最優先にさせていただきますことをご了解ください(通常の妊娠においても母体を優先します)。
3.その上でも、避けられない事態(死亡、後遺症など)が代理母に起こってしまった際を想定し、代理母ご本人の覚悟はもちろんですが、代理母と代理母のご家族に対し依頼夫婦はどのような対応をなさるかを、当事者間でお話し合いの上ご確認ください。
4.代理母の妊娠中、依頼夫婦が不慮の事故等(例えば死亡)で子どもの引き取りが不可能となった場合には、どうなさるのかを当事者間でお話し合いの上ご確認ください(人工妊娠中絶手術が許される妊娠22週未満での事故であれば妊娠中断するか、それ以後の場合なら出産し実母のご家族が引き取るか、養子縁組するか、など)
5.通常の妊娠でもあり得るように、生まれてくる子どもが、奇形児、染色体異常児、脳性小児麻痺、胎児死亡等である場合がございます。十分ご承知の上、代理出産に臨まれることをご確認ください。
6.現在、代理出産については国の法律も社会のサポート体制もなく、現時点では当病院と当事者の責任のもとでしか実施できない状況にあります。病院長以下、諏訪マタニティークリニックのスタッフ全員のサポートなくしては、これまでも今後も代理出産を続けていくことはできません。そのことを念頭においていただき、後に続く同じ状況の方々の道を閉ざすような行為は決してなさらないよう、固くお願いいたします。
7.現行の民法や判例では、子どもの母は「産んだ女性」、父は「その女性の夫」と定めており、現在のように代理出産で子どもが生まれてくることを想定していません。
そのため現段階では、当病院で代理出産により生まれた子どもはいったん代理母(産みの親)の子として出生届けを出し、その後に依頼夫婦の子として養子縁組するか、もしくは特別養子縁組を試みるかにならざるを得ないことをご理解ください。しかし、本来ならば「その子どもを認知した夫婦が父母である」とする民法改正が必要だと考えています。
8.今後、前向きな法整備がなされ、国内で代理出産が公の形で認められ、生まれてくる子どもが堂々と幸せに生きていける社会になれるよう、当病院では今後もさまざまな働きかけをおこなっていく所存です。一般の方々の理解を深めてもらうためにも、代理出産当事者としての体験談やマスコミへの取材などボランティアでご協力してくださいますよう、お願いいたします。そのような機会ではプライバシーを守る形での対応に限らせていただき、当病院が窓口となって、できる限りの配慮をいたします。それぞれのお立場で、できる範囲で結構ですのでよろしくお願い致します。
9.最後に、以下のことをお誓いください。
・代理出産を依頼する夫婦と代理母は、単に有る者が無い者に施すということだけではなく、ボランティア精神のもとに施すことのできる喜びと施しを受けることのできる幸せに感謝し、生まれてくる子どもの幸せのために責任をまっとうします。また、"命を授かる"ということへのすべてに対する感謝も忘れずに、真摯な気持ちで取り組みます。
・生まれてくる子どもに対しては理解力の持てた頃(4才~5才)に、この事実を話し、産みの親(代理母やその夫)と、実の親(依頼夫婦)との双方に対し感謝の心を忘れることのないように育てます。
以上が、当病院からの心よりのお願いです。
なお、治療に関しての不安、疑問等は遠慮なくスタッフにお伝え下さい。
「代理出産ガイドライン」に
将来的に追加すべきと思われる事項
いまだ検討の必要はあるものの、将来的には当院の「代理出産ガイドライン」に追加すべきと思われる項目や、当病院の考えを下記に列挙します。
<代理母について>
■代理母への金銭補償
依頼夫婦は代理母に対し、
1.妊娠・出産に関する実費を支払うこととします。
例:医療費、入院費、通院費(交通費、宿泊費等)、保険費用(代理母保険の新設)
2.妊娠・療養による収入減少や、生活費の負担増(タクシー代、衣服代等)となった分を補填します
3.謝礼は常識の範囲とします(商業主義・斡旋ビジネスは禁止します)
※もし斡旋ビジネスを許せば、依頼夫婦に重い金銭的負担を強いたり、代理母となる女性について人身売買や搾取等がおこなわれる恐れもあるため、営利目的の斡旋業者に対しては刑罰を持って対処し、商業主義は禁止すべきだと考えます。また、これは代理出産だけでなく、精子提供を伴うAID(非配偶者間人工授精)や、精子・卵子提供を伴う非配偶者間体外受精に関しても共通して言えることです。
なお、日本学術会議の「生殖補助医療の在り方検討委員会」(2006年12月~2008年3月開催)の最終報告書(2008年4月16日)は、「営利目的による代理出産を刑罰で処罰し、その対象を斡旋者・医師・依頼者とする」としましたが、医師や依頼者はその対象にすべきではありません。
■代理母の健康と権利に対する保障
1.代理母の健康管理
担当医師は代理母の健康チェックを十分おこないます。特に、高齢である実母(依頼母の実母)が代理母となる場合は、厳重な管理を要します。
2.代理母の死亡または後遺症に対する補償
代理母が死亡または後遺症を残した場合を考え、「代理母保険」(仮称)を新設します。依頼夫婦と代理母との間に代理出産に関する同意ができた場合、依頼夫婦は代理母のために代理母保険に入り、代理母に万が一のことが起きたときはこの保険で金銭補償します。
※当病院としては、当面は1,000万円の限度で補償契約をおこなうのがよいかと考えます。
※また、どんな出産でも危険を伴うものであることから、将来的には、代理出産だけでなく一般の出産に関しても国が「出産保険」のようなものを新設し、その負担も国が十分おこなうようにするのが良いと考えます。
3.依頼夫婦にとって出産児の引き取りが不可能となった場合
依頼夫婦が双方とも死亡または行方不明などになり、生まれてくる子どもの引き取りが不可能となった場合は、代理母は以下の権利を持ちます。
・妊娠中の場合は、22週未満において人工妊娠中絶手術をする権利を持つ。
・妊娠中(22週以後)または産後においては、出産児を養子に出す権利を持つ。
<依頼夫婦について>
■契約遵守の義務
依頼夫婦は、代理母といったん代理出産契約を結んだ以上は、最後まで契約を守り、生まれてきた子どもを引き取り養育する義務があります。
依頼夫婦が離婚したり、どちらか一方が死亡・行方不明になった場合には、夫婦のうちのいずれか、もしくは残ったほうが子どもを引き取ることを原則とします。
<生まれてきた子どもについて>
■子どもの権利保障
母親は「産んだ女性」、父親は「産んだ女性の夫」としている現行の判例や民法を見直し、代理出産で生まれてきた子どもも依頼夫婦の「実子」と認められるよう、当事者らも含めて国や社会に働きかける努力をしていきます。
<諸手続き・公的組織の整備について>
■諸契約に関する手続きの方法
依頼夫婦と代理母との間で、以上の項目も含めたさまざまな契約を、できる限り弁護士(契約手続)や公証人(公正証書)の関与のもとでおこなうこととします。
※公的なコーディネート機関の必要性
将来的には「公的組織」によるコーディネートシステム(代理母および精子・卵子・配偶子の提供者の募集、依頼者への仲介、サポートや管理等を公平におこなうシステム)を、国レベルで構築することが必要だと考えます。

