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Special Reproduction

特殊生殖  ー 減胎手術

ガイドライン

医療法人登誠会諏訪マタニティークリニック
1986年2月4日 作成
2009年4月1日 一部改定
2010年3月1日 一部改定
2013年6月1日 一部改定
2014年2月1日 一部改定
2015年11月1日 一部改定



 「減胎手術」に関しては、国の法的な位置付けはまだ明確ではありません。そこで、当病院では下記のガイドラインを独自に定め、患者さん・ご家族にも了解し宣誓していただいた上で実施します。


第一項:減胎手術とは

 自然に、または不妊治療の結果、多胎妊娠となった母親に対して、胎児数を減らし、母子ともに安全に妊娠経過させて出産に至らせる方法を「減胎手術」と呼びます。本来の意を汲めば「多胎一部救胎手術」と呼ぶことが望ましい施術法と考えます。


第二項:実施対象者

 妊娠22週未満であり、かつ以下のいずれかに該当する方

1.原則として、多胎の妊娠・出産が母子双方に危険を及ぼす可能性がある場合
2.すでに子どもがいて、多胎の養育が母体に悪影響を与える場合
3.胎児診断の結果、カウンセリングを経ても多胎の養育を不可能とする場合。


第三項:残す胎児の数

1.基本的には2胎を残すこととします。
2.2胎を妊娠・出産・育児するに耐え得る能力が、母体に乏しい場合(過去に筋腫核出術や帝王切開などの既往がある方や、妊娠により悪化するさまざまな疾患をお持ちの方、上に子どもがいる方など)は1胎のみを残すことも可とします。


第四項:実施に際してのカウンセリング

 施行にあたり、医師、看護師、カウンセラー等によるカウンセリングをおこないます。


第五項:実施方法

 減胎手術にはさまざまな方法が考えられますが、当病院では、妊娠11週の週内(過ぎても妊娠22週未満)で、減胎する胎児に塩化カリウム液を注入して心停止に至らせるKCl注射法をとっています。
 心停止した胎児は母体に吸収され、吸収されずに残った胎児部分は後の生児誕生の際に卵膜とともに体外に排出されます。


第六項:現行法に対する解釈

 減胎手術は、「人工妊娠中絶手術」の一方法であるとみなし、施行した場合は人工妊娠中絶に関する届け出をします。

 [理由] 現行の母体保護法が定める人工妊娠中絶手術の定義では、妊娠22週未満に「胎児及び胎児付属物を母体外に排出すること」とされています。
 塩化カリウム液により心停止した胎児は、残された生児が誕生した際(症例により異なりますが、減胎手術から約30週間後)に卵膜とともに体外に排出されることから、「30週間近くかけて人工妊娠中絶手術をしたもの」と当病院では解釈します。

 諸般の事情により12週以上22週未満で減胎した場合は、出産の際に卵膜部位に存在する減胎された胎児部分に関し、死産届を提出し火葬にて弔うこと。

 ※ガイドラインは、国の法整備や諸状況の変化などを踏まえ、また当病院の倫理委員会にて見直しの必要性を受け、適宜改定をおこなうものとします。




減胎手術に対する心得

減胎手術に臨まれる皆様

 このたびさまざまなご事情のもと、減胎手術に臨まれることと存じます。
 しかし、減胎手術に関しては明確な位置づけもされておらず国の法律がないため、当病院では独自のガイドラインに基づき施術をおこなっております。
 「減胎手術ガイドライン」と併せてこの「減胎手術に対する心得」もお読みいただき、ご家族でご確認・ご納得の上、減胎手術に臨んでいただきますようお願いいたします。


1.麻酔に関して
塩酸ケタミンという静脈麻酔による全身麻酔下で施行します。この麻酔薬は妊婦さんにとっても安全な薬であり、当施設においても、既に妊娠中の数千人の患者さんに使用しておりますが、特別な問題は起こっておりません。ただし、薬に対するアレルギーのある方は必ず事前にお知らせ下さい。


2.施術に関して
腹壁より超音波検査下で針を刺入し、胎児に塩化カリウムという薬剤を注入し、減胎します。この塩化カリウムという薬剤は、カリウムの足りない患者さんへの治療薬として使用されているものです。施術上有り得ないことですが、万が一全量が母体に注入されたとしても、母体には、何ら影響を与えるものではありません。
また、施術は、残す胎児に影響を与えないように、細心の注意を払って施行しております。
当院での減胎手術は、ほとんどが他施設からの紹介患者さんですが、1986年以来、既に 1000人以上の方に減胎手術を施行しております。初期の数例は別として、施術と関係のある問題例はほぼ皆無といえます。


3.施術を妊娠11週とする根拠は
①一般的に妊娠11週未満においては流産する可能性が高いこと
②妊娠11週未満で多胎妊娠例の一部の胎児が子宮内胎児死亡となる可能性が高いこと
③妊娠12週以後の人工妊娠中絶には死産届が必要とされること
④胎児のNT(頚部浮腫)検査時期が妊娠11〜12週の頃であること
⑤胎児の識別の容易性や子宮内胎児死亡となった胎児の異物化が余り大きくならない時期、相方を鑑みての週数が妊娠11週頃であること
以上であります。


4.基本として子宮体部(上方)に位置する児を手術し、
子宮口近く(下方)に位置する児を残す理由

子宮口近くの児が子宮内胎児死亡すると
①感染の可能性が高いものと考えられる
②異物化した胎児を排出しようとして作用、流産する可能性が考えられる
③子宮体部の場合に比し、吸収されにくいことが考えられる。
しかし、あくまでも可能性であり、データ下での見解ではありません。但し、施術せざるを得ない児が子宮口近くである場合は、上記の点を充分考慮され、手術を受けて下さることをお願い致します。


5.多胎中に一卵性(一絨毛膜性)双胎や品胎が含まれる場合の留意点
一卵性双胎は、妊娠中に双胎間輸血症候群(TTTS)を起こす可能性が大きいため、一卵性双胎を施術することをお勧めします。
一方、一卵性双胎や品胎中の一児に施術すると、一卵性双胎や品胎の全てが胎児死亡に至ることを充分留意しておいて下さい。


6.術後感染に関して
完全な消毒下での施術ではありますが、過去 1 例のみ施術後に感染を起こし流産された方がありました。


7.術後の流・早産に関して
普通の妊娠・出産において、流・早産等で生児を得られない方は、 1〜2 割{妊娠反応だけ 陽性のままで流産する例(Chemical Pregnancy)まで入れると 3~4 割}あるとされています。その内のほとんどの流産は、妊娠 7~8 週頃までに起きています。もし、妊娠 10 週前に減胎手術を受けた場合、自然流産するかも知れない胎児を残してしまうことにもなりかねませんので、現在は妊娠11週での施術としています(3.を参照)。
当院における一般的妊娠例の妊娠12週以後における流・早産にて生児を得られなかったケースは、 1〜2 %です。それに比し、最近の減胎手術後の流・早産にて生児を得られなかったケースは、 4〜5 %に見られています。これは、残す児が2胎のケースが多く、一般的には双胎妊娠の流・早産で生児を得られない率が高いことが反映されているものと考えられます。いずれにしても現在は、減胎手術だけが原因で流・早産し、生児を得られていないケースはほとんど無いものと考えています。


8.術後の経過
特に問題のない方は、2、3日の安静後、普通の生活に戻って下さい。
術後、一時的に不正出血が少しある方がおられますが、続かなければ心配ありません。
切迫流産状態(不正出血、腹痛等)のまま来院され、減胎手術を希望される方には状況を見て施術しますが、お帰りになった後も流産予防の対応を受けて下さい。
2 人以上胎児を残される方は、流早産予防のために、子宮頚管縫縮術(シロッカー氏手術)を受けられることも一策でしょう。いずれにしても担当の先生とご相談下さい。


9.先天異常(奇形も含む)、染色体異常に関して
これ等の問題と、減胎手術とは一切関係ありません。もし、減胎手術によって残され生まれたお子さんに何か問題があったとしても、一般の出産における頻度と同様に起こりうるということを御承知ください。


10.減胎された胎児に関して
減胎された胎児は母体に吸収されて、また元のお母さんの体に戻ります。また、その何万分の幾つかは、残された胎児の体の一部となるでしょう。何人かで走って来た命のリレーが、減胎手術によって1人か2、3人にまとめられ、そのようにして新しい命のバトンタッチがなされて行くものと私達は考えています。


11.減胎手術を受けるにあたって
減胎手術は、「一人でも多くの命を残す」「安全に生児を獲得する」ことを目的として行なわれる施術です。子どもを望んで妊娠したにもかかわらず、妊娠した胎児の数が多いがために、また、胎児診断の結果を踏まえての最終的決断を経て、減胎手術はなされています。
人間が持ち合わせていなければならない絶対的倫理観の一つとして「人を殺傷してはならない」という一項があるものと考えています。減胎手術も人工妊娠中絶も、その一項に反することには間違いありません。しかし、もし減胎手術をしなければ、また、人工妊娠中絶をしなければ、という狭間において、ご自身が熟慮し出された結果であることも間違いないでしょう。
熟慮されて減胎手術を選択したにもかかわらず、術後減胎された児を想い罪悪感を持たれることがあります。そして、他に方法があったのではないかと後悔をされることもあります。罪悪感を持つことも後悔することも人間ですので否定は致しませんが、減胎手術を受けられるのであればその事実を受け入れ、減胎手術によって助けられ生まれて来た命に感謝し大切に育てて頂きたいと思います。
罪悪感をいつまでも持ち続け、後悔し続ける可能性があるならば、最初から減胎手術を受けるべきではありません。
当院のスタッフは、残されたお子さんにとっても、また、御家族にとっても減胎手術を行なうことが少しでもプラスである事を願い、施術に関わらせて頂いております。


12.残された子どもに関して
前項で述べさせて頂いたように、減胎された胎児もまた望まれて妊娠した子どもです。ですから、生を受けた子どもと共に、減胎された子どもも一緒に成長しているものと思いつつ、全ての命に感謝し、お子さんの成長を見守ってあげて下さい。
そして、出来ましたら、生を受けた子どもが成長し 20 歳頃になったら、「減胎手術をおこなったこと。去って行った兄弟姉妹のお陰で、お前(達)がいること。去って行った兄弟姉妹の分まで自分の命を大切にし、頑張って生きて欲しい」とお話される機会を作って頂けることを願っております。 この事実を、真摯に受け止めることの出来るようなお子さんにぜひお育て頂くことを、 お願い致します。



2013年6月1日