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Special Reproduction

特殊生殖  ー 非配偶者間体外受精

ガイドライン

医療法人登誠会諏訪マタニティークリニック



「非配偶者間体外受精」に関する国の法律は未整備のため、当病院では下記のガイドラインを独自に定め、患者ご夫婦とご家族、さらに精子・卵子提供者に了解し宣誓していただいた上で実施します。


第一項:非配偶者間体外受精とは

 「非配偶者間体外受精」には、下記の方法があります。

1.男女のうちどちらかが配偶子(精子または卵子)がない場合、または自身の配偶子では妊娠・出産が不可能と診断された場合、第三者から配偶子の提供を受けて妊娠・出産する方法
2.男女両方とも配偶子(精子も卵子も)がなく、胚(受精卵)の提供を受けて妊娠・出産する方法
上記のうち、当院では当面「1」のみをおこなうこととし、以下述べる「非配偶者間体外受精」も「1」を指します。「2」は将来の課題とします。


第二項:実施対象となり得る方

 以下のすべての条件が満たされている場合に治療相談を開始致します。

<依頼者(精子・卵子の提供を受ける者)>
1.戸籍上の婚姻関係にある夫婦で、妻が治療開始時に43歳未満の場合に限ります(通常でも女性が43歳以上の場合の妊娠は皆無に近いことと、出産したとしても子どもが成人になるまでに夫婦が養育できるか体力的・経済的にもリスクが高いと考えるためです)。

2.夫婦のうち、どちらか一方の配偶子(精子または卵子)がない、または自身の配偶子では妊娠・出産が不可能と診断された場合に限ります。
 「精子がない場合」とは:MESA(顕微鏡下精巣上体精子吸引術)、PESA(精巣上体精子吸引術)、TESE(精巣精子回収術)でも精子が採取できない場合
  「卵子がない場合」とは:先天的・後天的理由で卵巣不全・卵巣欠損で排卵がない場合(ターナー症候群、早発閉経、卵巣摘出した方など)

<精子・卵子の提供者>
1.国の法的整備がなされるまでは、精子の提供者は「依頼者(夫)の実父または兄弟」、卵子の提供者は「依頼者(妻)の姉妹」と限ることを原則とし、それが不可能な場合には、依頼者夫婦の責任のもと別の第三者からの配偶子の提供も可。但し、妊孕性も考え、卵子の提供者の年齢は35歳まで。
 当病院では配偶子(精子、卵子)の斡旋などは致しません。
2.原則として、すでに結婚して子どもがいる方に限ります。
3.金銭や、生まれてくる子どもへの権利などを要求せず、あくまでボランティア精神で臨む方(依頼者からの強要は受けていないこと)。


第三項:手続き

1.医師やコーディネーターは、依頼者・提供者・ご家族に対して、施術の内容について十分なインフォームド・コンセント(説明と理解と合意)をおこないます。また、施術の危険性や問題点(一般の妊娠においても起こり得る障害児が生まれる可能性、母体への影響など)についても説明し、その場合の対応について依頼者・提供者・ご家族であらかじめ十分に話し合っていただくよう要請します。

2.配偶子の提供・受け取りは、あくまでも提供者側のボランティア精神と、それを感謝する依頼者側との信頼関係・責任のもとで実施されることとします。依頼者が提供者に金銭を提供する場合は、必要経費(診察費や交通費)や謝礼の範囲にとどめます。

3. 当院と当事者間の責任のもと行われる特別な医療行為であるため、当院の医療者の指示に従って治療を行えない場合、または当院との信頼関係、当事者間(提供者夫婦、被提供者夫婦)の信頼関係に基づいて治療が行うことができないと判断された場合は、継続することができません。

※ガイドラインは、国の法整備や諸状況の変化などを踏まえ、また当病院の倫理委員会にて見直しの必要性を受け、適宜改定をおこなうものとします。



非配偶者間体外受精に対する心得

非配偶者間体外受精に臨まれる皆さんへ

 子どもをほしいと願いながらも精子・卵子がない、または自身の配偶子では妊娠・出産が不可能と診断されたご夫婦にとって、非配偶者間体外受精は、従来行われてきているAID(非配偶者間人工授精)と比較し、精子だけでなく卵子の提供を受けての治療も可能であるという点において画期的な技術です。また、精子提供を受けての治療における妊娠率は人工授精型より体外受精型の方が圧倒的に優位です。そのため、当院では提供者、被提供者の負担を鑑み、体外受精型のみ行っています(AIDは行っていません)。
 当病院では、精子、卵子のない方、子宮の無い方を、生殖機能における障害を持つ、いわば「生殖障害者」として捉え、他の障害者同様、社会においてサポートをしていくべき、生きていく上での選択肢が増やされるべきと考えています。
 また、精子、卵子の提供を受けての治療は、精子、卵子の段階での養子縁組であると考えます。子どもが産まれてから行われる通常の養子縁組を選ぶことも一つの選択でありますが、同様に、現代の医療技術を用いての配偶子の養子縁組も選択肢にあってよいのでないか、と考えています。この方法では、夫婦ともにいのち(妊娠)のはじまりから関わり、出産、母乳哺育も可能であることから、親子の絆が形成されやすいと考えられます。

 日本でのAIDは、1949年慶応大学病院にて日本初のAIDによる児が誕生し、以来、事実上容認されてきました。日本産科婦人科学会が1997年に長年の実施を追認する形でガイドラインを制定し認めた一方で、非配偶者間体外受精についてはいまだ明確には認めておらず、国における法令などもありません。そのため、人工授精型の精子提供を受けての治療は(学会の会告において)認められているのに、体外受精型の精子提供は認められていない、まして体外受精型の卵子提供は認められないという状態が続いています。
 当院の根津八紘院長は、問題提起のため1998年に卵子提供による非配偶者間体外受精の実施を公表し、日本産科婦人科学会より除名処分(2004年に復帰)を受けるという事態になりました。しかし、精子はよくても卵子はダメ、人工授精はよくても、体外受精はダメ、という学会の理屈に納得がいかず、当事者のための医療を訴え、問題提起をし続けてきました。  
 その後、約10年の年月を経て、2008年に複数の民間ARTクリニックによって構成される「JISART」がガイドラインを公表し、卵子提供による非配偶者間体外受精を実施しました。2009年に、日本生殖医学会が「第三者配偶子を用いる生殖医療についての提言」をおこない、認めていく方向性をだしました。しかし、未だ、国としての法令や政府省庁レベルのガイドラインも存在していません。
 そのため、日本においてはそれぞれ独自にガイドラインを作成して実施しているのが現状です。   また、依頼者・提供者間の免責に関する法律などもないため、実施に際しては皆様に留意していただきたい点が多々あります。
 「非配偶者間体外受精ガイドライン」と併せて、ご夫婦や配偶子の提供者の皆様で十分にお話し合いの上、当事者間の責任のもと対応することを確認して、非配偶者間体外受精に臨んでいただきますようお願いいたします。


1.生まれてくる子の障害の可能性

 通常の妊娠でもあり得るように、子どもが、奇形、染色体異常、脳性小児麻痺などを伴って産まれる、または胎児死亡等となる場合がございます。十分ご承知の上で臨むことをご確認ください。


2.妊娠中・出産直後に夫婦に万が一のことがあった場合

 もし夫婦の間に不測の事態が生じた場合(妊娠中に夫が死亡した、出産直後に妻が死亡した、夫婦が突然に離婚した等の場合)には、当事者間の責任のもと対応することを事前にご確認ください。


3.将来もし夫婦が離婚等する場合

 非配偶者間体外受精で子どもを得た場合、もし将来夫婦が離婚することになれば、夫婦のどちらかが養育責任を放棄し、どちらかのみに負担がかかるという恐れが、普通の離婚の場合以上に考えられます。例えば、(AIDの場合でもそうですが)精子提供により子どもを得た場合、夫が「自分の子ではない」「妻が別の男性とつくった子だ」などと言いがかりをつけて養育責任を放棄し、妻だけが負担を負うことになるという恐れもぬぐい切れません。また、夫婦が死別した場合にも、残されたほうが子どもの養育を放棄しようとするかもしれません。
 反対に、夫が認めて実施したAIDであっても実際に子には夫の因子は無いから、と親権争いの際に妻が権利主張するなどの問題も、AIDにおいて過去に起っています。
 こうした事態も想定し、夫婦の間であらかじめ十分に話し合って、子どもの幸せを第一に考えて対応方法をお考えください。


4.子どもへの告知について

 提供された配偶子で生まれたという事実を子どもに告知するかどうかについては、提供者・依頼者夫婦(親)の双方の意思も尊重しますが、やはり第一には子どもの幸せを考えてお決めください。
 なお、当院としては、なるべく早い段階から、詳しい事実をそのまま伝えるというより、誕生日等に肯定的に「あなたが産まれてくるのをどんなに皆が望んで、待ちわびていたか」などを伝えながら、年齢に応じ段階を踏んだ事実告知を行うことが望ましいと考えます。これは、養子縁組やAID等のケースにおいて、子どもが安心して親の元で育ち信頼関係を構築するために必要であると、国際的にも近年語られていることにもよります。子どもが、「愛されている実感」とともに育ち、たとえ子どもが事実を知ったとしても(そのことによって子どもに一時的に否定されることがあろうとも)、最終的に揺らがないような親子関係を築いていくのだ、という覚悟をお持ちいただきたいと思います。
 しかし、現状の社会では、まだこの治療が公に認められていない状態ですので、その中で告知を必ず行うことを強要することが、それぞれのご家族にとって良いことであるかは疑問であります。当院では告知を強制するような一部の動きには反対の姿勢をとっています。
 以前は、「告知をするなら物心がついた頃に、告知しないのなら一生告知しない覚悟で」、とお伝えしてきました。それは、AIDの例などで、思春期、もしくは成人した後に親の離婚や不慮の事態の時に事実を聞かされ、二重三重のショックを受ける等のケースがでていたようであったからです。中途半端に親の都合で告知をするということだけは絶対に避けて頂きたいと思います。
 その一方で、提供者が明らかにされないと、近親相姦が起こりかねないという心配や、子どもが出生の秘密を知ったとき自分のルーツをたどれないという問題もあります。近年、子の「出自を知る権利」という問題として国際的にも議論されています。本来はこうした情報を取り持つ公的な第三者機関(例えば法務局がその役割を担うなど)も必要かと思いますが、そうした制度がない現状で実施するには、それらの問題も考慮した上で告知に関しても考えていただきたいと思います。


5.親子の法的関係について

 現行の民法や判例では、母は「産んだ女性」、父は「その女性の夫」と定められており、非配偶者間体外受精などの新しい生殖医療技術により子どもが生まれてくる今の状況は想定していません。当病院では現在のところ「戸籍上の婚姻関係にある夫婦」にのみ非配偶者間体外受精を実施しているため、現行法においても生まれた子と依頼者夫婦との法的親子関係は確保できますが、今後さまざまな形の非配偶者間体外受精が認められるとするならば、将来的に特別法の制定や民法改正などが必要と考えます。


6.後に続く方にも道が開けるよう

 現在、非配偶者間体外受精については国の法律や社会のサポート体制はなく、現時点では当病院と当事者の責任のもとでしか実施できない状況にあります。病院長以下、諏訪マタニティークリニックのスタッフ全員のサポートなくしてはこれまでも今後も続けていくことはできません。そのことを念頭においていただき、後に続く同じ状況の方々の道を閉ざすような行為は決してなさらないよう、固くお願いいたします。


7.いのちへの感謝を持って

 配偶子の授受に感謝し、新しいいのちに対しても敬虔さと慈愛の心を忘れずに、真摯な気持ちで非配偶者間体外受精に取り組むことをお誓いください。

以上が、当病院からの心よりのお願いです。
なお、治療に関しての不安、疑問等は遠慮なくスタッフにお伝え下さい。



1996年10月26日 作成
2009年4月1日  改定
2010年11月1日 一部改定
2013年9月1日 一部改定
2014年2月1日 一部改定
2014年3月1日 一部改定
2017年12月1日 一部改定