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Special Reproduction

特殊生殖  ー 高齢不妊

高齢不妊と社会の状況

次に、当院を訪れる患者さんの状態から社会の状況、そして高齢不妊の問題を考えてみたいと思います。




高齢不妊とその社会的原因


1. 生殖に関する無知

最近、高齢結婚の下、高齢不妊で来院するご夫婦が増える中に、生殖に関する無知からのケースが多くなっていて、それもインテリと呼ばれる人達の間に多くなっている感じがします。男性は生きた精子があれば死ぬまで妊孕性を持っていると言っても過言ではないのですが、女性の場合は残念ながら限界が存在しています。極端な言い方をすれば子供がほしいのならば35歳までに妊娠すべき、でしょう。

過日、以下のような御夫妻がはるばる遠方より来院されました。奥さんが45歳、御主人が56歳、2年前に結婚、その後子供が出来ないので他院で加療、体外受精を3回受けられ、年齢的に無理に近いと言われ、当院を受診されたとのことでした。奥さんには子宮内膜症と子宮筋腫が幾つかあるとのことでした。過去に少し病気をしていたことと、親の面倒を診ている内に婚期が遅れてしまったが、結婚したら子供はすぐ出来るものと思っていたとのことでした。又、受精卵はグレード1(良好)だから、きっと子宮の状態が良くないので、代理出産をしてもらいたいとの希望も持っていました。私はこの話を聞いて、結論的に不可能であると判断させていただき、おもむろに話を始めました。

「御夫妻の年齢からして、妊娠することが大変難しいことと、更に、子宮内膜症、子宮筋腫という条件と奥さんの年齢を考えた時、この信州まで足を運ばせても貴重な時間とお金を浪費させてしまう結果で終わることは大です。また、『代理出産でも』とのことですが、一体誰が代理出産をしてくれるというのです。簡単に代理出産などということを考えないでください。失礼ですが、この年齢になって結婚したならば、大切な時期を不妊治療のために無駄に費やすことよりも、今の時期を二人でエンジョイしながら老後のことを考えたらどうでしょう。

それにたとえ不妊治療を続けて万が一お子さんが出来たとしても、将来20歳そこそこの子供にお二人の老後の責任を負わせることになるということをお考えになったことはありますか?お二人と同じようなお考えの方達が沢山受診されていますが、いつも同じようなことをお話し、不妊治療を諦めて頂くようにしています。これだけの時間を使い、関わらせて頂いている私の気持ちを御理解頂き、お引き取りください。」

何とつれない対応をしているかと思われても仕方無いのです。このような方々は、妊娠は結婚と同時にやってくるものだというお考えを、一般的な妊孕期間を過ぎ、様々な疾患をお抱えになっていてもまだなお捨てずにお持ちです。人間には諦めることも必要だと思います。 このような内容を不妊患者さんから御連絡頂いた時、御返事をメールやFAX、又は電話で済ませられる内容ではないと思うので、なんとか別の時間を作り、1〜2時間程かけてお話させて頂いております。変な話ですが、これだけ時間をかけても平日の初診料しか頂いておりません。そんなことはどうでも良いのですが。
身から出た錆でしょうが、今や全国からの不妊患者さんのよろず相談所をやっているというのが現実です。




2. 社会環境と若者の未婚化

女性の初婚年齢の平均は29歳と言われています。また妊娠にとりくもうと考える頃には、既に女性が高齢不妊の域に入っているというのが現実かも知れません。




3. 乏結婚チャンス ─結婚相談所の必要性─

少子高齢化ということが叫ばれてから久しくなります。しかし、何ら対策が取られず、政府の出す予想を上回って少子化が進んでいることを、最近の外来診療を通じても如実に感じているのは私だけではないと思います。それというのも、婦人科疾患で来院する患者さんのかなりの方が結婚していないのです。それも前述した結婚したくないというのではなくて、結婚したくても相手が居ないという人が多く目に付くのです。折角子宮筋腫の筋腫だけ切除してあげても、又、子宮内膜症の結果、チョコレート嚢腫が出来ている方に、開腹せずチョコレート嚢腫の内容吸引、嚢腫内膜のアルコール固定をして妊娠し易くしてあげても、結局結婚・妊娠というプロセスを経ずに終わっている人等。そんな人達に、「苦労して子宮や卵巣を残してあげたのに、どうして使わないんだ」と、冗談交じりに言うと、「結婚したくても相手が居ないんです。私の職場は男性が居ても所帯持ちばかり。車で朝早く出勤して遅く帰宅する生活で、どうやって結婚相手を探すのです。先生探してください。」と。

そのような話を聞く度、結婚生活や家庭生活に対する魅力減退だけの問題でなく、結婚相手が探せないという現状も大きくなっている感じがします。自由恋愛の中で、チャンスを作れない人達に、かつては仲人という役目の人達が、それでも残っていたのですが、今は皆無に等しく、例え居たとしても「最近の人達は難しくて」という反応が返って来るのも事実です。

難しいかも知れませんが、やはり、仲人役が必要ではないかと考えられます。
近年は自治体で積極的に結婚支援の事業を始めるところも出ているようですが、なかなかむずかしいようです。




4. 妊娠・出産・育児への援護体制の未整備

女性が働きながら、妊娠・出産・育児を可能とする体制が、家庭内にも社会的にも充分整っていないことが、結婚・妊娠への意欲を減退させ、それでもと結婚・妊娠をやっと決心した時には既に手遅れとなっているような高齢不妊例も増えて来ています。 確かに男女共同社会というシステムは整い始め、男性と同じように重要なポジションに女性も就けるようになって来ました。しかし、簡単にその場からその立場の女性が結婚を理由に手を引いたり、手薄にすることなど出来ない状態にもなりつつあります。また、たとえ夫である男性が育児をサポートできたとしても、妊娠・出産・母乳育児は女性でしかできないことです。即ち、妊娠・出産・育児によって仕事から手を引いたり手薄になることが、たとえ仕事に復帰し得たとしても、仕事を休まず続けていた男性と肩を並べて仕事を続けるには大変な労力を要するでしょう。このことを考えると、なにかしらの対策が施されない限り女性が婚期を逸し、高齢不妊となることは否めない事実となるのです。

少しでも働く女性が母乳育児に困らないようにと、当施設では独自の0歳児母乳保育士育成に努力、その結果そのような保育士が院内の働く女性の母乳哺育継続を可能にしていますが、それは子供を生んだ後のことでしかあり得ません。即ち、どんなことをしても、女性しかし得ない妊娠・出産の期間を男性が取って変わることはできないのです。

日本の今の状況を考えても、女性の労働力は国の財産なのですから、その女性たちにより多く子供を産んでもらう為の社会制度を国は早く打ち出さないと、晩婚化も高齢不妊も少子化もくいとめることは出来ないでしょう。




高齢不妊の社会への影響

高齢不妊に対する治療の結果、妊娠できたとしましょう。この場合は高齢が故に、異常妊娠・異常出産となる率は当然増えることになります。また、高齢になればなる程、母乳分泌は低下、人工栄養となる確率が増え、そのための子育てにおけるのデメリットも考えておかなければならないものと思います。

また、社会である程度の立場を有し、高齢になったカップルの場合、頭で考えた子育てに陥り易い傾向があります。基本的に子育ては体でするものです。一概にはいえませんが、高齢出産したケースに子育ての下手なケースが多いのは、そのためだと思うのは私の偏見でしょうか。 女性が妊娠せず働くことにより、社会に貢献出来るメリットはあります。しかし、その結果、高齢不妊を作り、その不妊治療に要する治療費とそれに要する時間的損失、そして何よりも次の世代を担う子供の出生が遅れること、更には子供ができなかった場合を考えると、経済的人的損失は計り知れないものがあります。

また、前述したごとく、例え妊娠できたとしても、高齢が故に異常妊娠・異常出産は多くなるわけで、それに要する治療費、時間的損失は社会全体においても馬鹿にならないものと思います。

ですから、女性が働きながらでも子供を産める環境をつくることは、社会全体にとって経済的にとても有益なことなのです。