HOME / 特殊生殖医療部門 / 特殊生殖 / 高齢不妊 / はじめに
   d  d  d

Special Reproduction

特殊生殖  ー 高齢不妊

はじめに

高齢不妊などという新しいカテゴリーを設けなければならない程、最近来院する不妊患者さんの中に、高齢が故に妊娠できない、又は妊娠しにくいカップルが増えています 現代における高齢不妊という問題を、産婦人科の医師という立場からお話しさせて頂きます。




子供が欲しいなら、女性は17、8歳で妊娠すること!?

何も懐古的になろうなどとは思いませんが、今から100年程前までは、女性は17、8歳で嫁に行き、子供を4〜5人から10数人産んでいました。

女性を子供を産む道具にしようとは思いませんが、女性がこの位の年齢で結婚し、沢山子供を生むことが、どれだけ無駄な不妊治療をしなくて済むかということについてお話致します。何故ならば、一般的な女性の妊孕期間が、15、6歳から45歳位までと考える時、その間に子宮や卵巣等は加齢によって変化し、特に35歳以降は著しく妊孕性が低下していくからです。 10代の女性で子宮筋腫のある人はまずいませんし、卵巣腫瘍のある女性は稀にしか居ないと言っても良いでしょう。しかし、若い時に芽のように存在していたものが加齢により大きくなり、不妊や不育症の原因になり得ることを忘れてはなりません。 近年、アンチエイジングというものがもてはやされていますが、見た目がたとえ若く健康であろうとも残念ながら女性の子宮や卵巣のアンチエイジングは出来ないのが現実です。




子宮の不妊原因疾患


1)子宮筋腫

先ず子宮に関してお話しましょう。子宮の腫瘍で最も多いのが子宮筋腫です。顕微鏡レベルで発見される子宮筋腫も含めれば、女性の2人に1人は筋腫があります。その筋腫は加齢と共に大きくなり、特に35歳から40歳頃にかけて臨床症状を引き起こす傾向にあります。筋腫には子宮の外側に出来る漿膜下筋腫、子宮の筋層の中に出来る筋層内筋腫、子宮の内腔に突出する粘膜下筋腫があります。子宮の外側に出来る漿膜下筋腫は、ほとんど妊娠に影響しません。

数年前に経験したケースですが、妊娠7週位で妊娠にて来院、既にその時子宮筋腫は胃の辺りにまで達していました。しかし、流早産に対する管理をして無事出産に至っています。しかし、筋層内筋腫で大きいものは、子宮の内腔の形を変形させ、不妊や不育症の原因となり、粘膜下筋腫に至っては、IUD、一般に言うリングと同じような役目をして、より不妊の原因となると同時に、生理を重くする原因ともなっています。粘膜下筋腫は、手術をするのに子宮の内腔まで切り込まなければなりませんが、どの筋腫も筋腫部分だけを核出すれば済むので、例えどんなケースであっても妊娠を望むのであれば、子宮全体を摘出する必要はありません。私の下に、未婚の時代に筋腫のために安易に子宮摘出術を受けてしまった女性が、代理出産の相談に多数来院しています。しかし、筋腫だけの理由で子宮摘出術を、それも本人が希望もしないのにすることはあり得ないことで、もしもあったとするならば、それは犯罪行為(傷害罪)と考えて良いと思います。




2)子宮腺筋症

次に多い子宮の腫瘍は、子宮腺筋症でしょう。これは子宮の内膜と同じような組織が子宮全体もしくは限局したかたちで子宮の筋層内に散らばって増殖してしまうもので、超音波検査の出来なかった時代は、多くは子宮筋腫と診断されていました。 これは月経困難症や月経過多の原因の1つで、悪性疾患ではありませんが子宮筋層内に癌のように浸潤して形成されているためその部分だけを筋腫のように核出することは難しく、多くは内膜症に対する薬を使って対応します。しかし、これはというような決定的な治療法は存在せず、最終的には子宮摘出手術をしなければならないというのが現実のところです。これも、大きな不妊症の原因となり、加齢と共に悪化し、閉経と共に治癒に向かう疾患で、超音波検査のお陰で診断が確定し易くなりました。




3)子宮癌

(1)子宮頚癌

STD(性交感染症)の一つ、パピローマビールスの感染によっても発症し、比較的若い女性での発症が多いといわれているのですが、若いときには子宮腟部異形成や上皮内癌のレベルであった方も、時間の経過のうちに進行癌へと重症化してしまうこともあることから、加齢により重症化する傾向にあるといっても良いのではないでしょうか。最近は頚癌検診が普及してきたため、円錐切除術という病変部だけを取り除く手術で対応可能なステージでの発見も多いのですが、しかし、依然として発見された時には手遅れで、子宮全摘出術と両側卵巣切除術を受けなければならないケースもあるのです。

妊娠検査の初回に必ず子宮頚癌検査をおこなうようになったため、若いうちに妊娠して産婦人科を受診すれば、癌に対する危機意識が薄くても早期発見となり、0期やIa期の早期癌であればそのまま妊娠を継続させることができます。しかし、独身の女性が婦人科の診察に抵抗感をもち子宮頚癌検診を受けずに年月をへた場合、いざ結婚してめでたく高齢妊娠で産婦人科を受診されたときにはすでに進行癌となっており赤ちゃんごと子宮を摘出せざるをえないということもありうるのです。

ところで、不運にも子宮摘出の必要があるステージで癌が発見されてしまった方は、以前であれば子供を望むことは諦めざるをえず、二重のショックをうけておられました。しかし、代理出産という道が残されていれば、希望をもって癌の治療に励むこともできるのではないでしょうか。しかし、まずは二十歳をすぎたらパピローマウィルスに感染する可能性があるかたは子宮頚癌検診をうけていくとともに、万一パピローマウィルスに感染したとしても癌化するまえに、つまり若いうちに結婚・妊娠なさることが大切だといえるでしょう。



(2)子宮体癌

基本的には閉経近く、又は閉経後の女性に多く見られる癌です。閉経期の女性にみられる子宮体癌とは異なる発症帰転ですが、若い方でもときどき子宮体癌がみつかることがあります。いずれにしても加齢と共にその頻度は高くなるわけで、これに関しても若い内での結婚・妊娠、又は不妊への対応をすることは、子供を得られなくなる頻度を減らすこととなります。




4)子宮内膜の条件

子宮内膜も加齢と共に妊娠に対する条件は悪化すると考えなければならないでしょう。特に前述した子宮筋腫や子宮腺筋症による影響が加われば、尚更のことです。又、子宮の内膜がポリープ組織に変化、粘膜下筋腫と同じようにIUD的役目を果たし、不妊の条件を作ることも起き易くなります。又、望まぬ妊娠に対し、人工妊娠中絶の機会もあり得るわけで、そのような既往が子宮内膜の条件を悪化させることにもなるのです。




子宮以外の不妊原因疾患


1)子宮内膜症、チョコレート嚢腫

これは、前述した子宮腺筋症の親戚で、子宮の内膜と同じような組織が子宮の周囲や卵巣等にも存在し、生理の度にその部位にも出血が見られ疼痛を来たし、月経困難症の代表的疾患として、最近注目を集めています。この部位は度重なる出血のため、周囲の組織と癒着、卵管も癒着等により通過障害等を起こし易く、不妊原因のかなりを占めることになっています。 卵巣にも同様なことが起こると、卵巣内に血液が溜まり、それが濃縮されてチョコレート嚢腫と呼ばれる卵巣嚢腫を形成、卵管との癒着も形成、嚢腫の肥大化も伴って体外受精における採卵も出来にくい状態を作ることがあります。

この状態は月経が来る度に重症化し、不妊以外に日常生活において月経困難症、排便痛、性交痛等も伴うことから、若い内の結婚・妊娠、又は不妊治療が最も求められる疾患と言っても良いでしょう。何故ならば、妊娠・出産・母乳育児が無月経状態を作り、子宮内膜症の重症化を阻止することにもなっているからです。 子宮内膜症が増加傾向にあるのは、環境汚染が関与しているとの考え方もありますが、私は妊娠・出産が遅くなったことも大きな原因ではないかと考えています。昔のように、17、8歳で妊娠・出産・母乳育児を繰り返していれば、子宮内膜症を発症させる余地が無くなり、例え発症しても、不妊原因とならずに済んでいたものと考えられます。

先日手術したケースは、以前にチョコレート嚢腫のため開腹手術をし、その際の腹腔内の状態は内膜症のため、対応し切れない程ひどい状態でした。そのケースの方が体外受精にて妊娠し、出産・母乳育児を経て、月経再開後、腹痛にて再来しました。その原因は、術後の瘢痕等のため卵巣が硬くなり、排卵しずらくなるいわゆる黄体化非破裂卵胞による排卵痛で、日常生活にも支障を来し、子宮腺筋症もあったため、本人の希望にて腹式子宮全摘手術を施行。その時の腹腔内の状態は、癒着に関してはひどい状態でしたが、以前認められた大きな内膜症病変は、ほとんど見られない所見を呈していたのです。即ち、妊娠・出産・母乳哺育が子宮内膜症の治療にも一役かっていたものと考えられた症例でした。




2)STD(性感染症)とその後遺症

(1)卵管閉塞

卵管閉塞や、次に述べる乳管水腫の全てがSTDの結果というわけではありませんが、ほとんどのケースがSTDの後遺症です。特に最近はクラミジア感染が多く見られ、その結果、卵管閉塞や癒着を起こし、不妊の原因や、子宮外妊娠の原因となっていることが多くなっています。



(2)卵管水腫

卵管の先端部での閉塞から卵管に水が溜まり卵管水腫を形成、水腫部分からの水溶性分泌物が時々子宮内に流れ込むようになり、着床しようとしている受精卵をも洗い流し、体外受精をしても妊娠しない原因となっている場合があります。このような場合には、卵管水腫を切除、体外受精での妊娠を指向すべきです。 若い内にSTDになってしまったならば結果は同じでしょうが、一般的には加齢と共にSTDになってしまう場合が多くなると考えられるため、これに関しても若い内の結婚・妊娠が不妊予防となり得るものと考えられます。




3)卵巣癌、卵管癌

これも加齢と共に頻度は増加することより、若い内での結婚・妊娠、又は不妊治療が求められることになります。




排卵障害による不妊原因


1)早発閉経

人によっては、一生の内排卵する卵の数が20〜30個とか、多くても100個位しか無い場合があり、月経不順で時々排卵が見られるものの、20歳代や30そこそこで早発閉経となってしまう場合があります。昔のように17、8歳で結婚していた場合は、2、3人子供を儲けた後、早目の閉経となっていた人は、今のように結婚を遅らせてしまうと、結婚前に排卵し切ってしまい、結局早発閉経のために子供を作ることが不可能な人が出て来るようになりました。私が最初に非配偶者間体外受精を行ったケースは、正にそのような状態であったものと考えられます。ちなみに医療の発達した現在においても、ご自分が持っている残りの卵の数を把握することは不可能です。



2)卵子の老齢化

男性の場合、活動性のある精子が有るのであれば、精子の老齢化ということは余り考えなくて良いかも知れません。しかし、女性の場合は、卵子の老齢化が決定的な形で存在するため、たとえ排卵していても、妊娠の可能性は低下、また、たとえ妊娠しても、染色体異常を来し易く、不育症の原因ともなり得るのです。 この卵子の老齢化を補うべくその卵子の核を若い人の卵の核を除去した中に入れ、原形質を若返りさせる形で卵子の若返りを図り、妊娠率を上昇させる方法も試されています。しかし、若い卵の提供者が居ないこと、又、倫理的な問題、原形質中のミトコンドリアの妊娠への関与等が考えられ、実際的に繁用されることは不可能に近い状態にあると言っても良いと思います。 このような理由により、現在のところ、卵子の老齢化が高齢不妊の最大の原因となっています。




男性不妊症


加齢による不妊原因の増加は女性だけに起こるものではありません。




1. 乏精子症、無精子症

男性の場合も、加齢と共に精子数が減少し、普通の夫婦関係だけでは妊娠が不可能になる場合も出てきます。又、年齢と共にSTDに感染する機会もあり得、それにより精管の閉塞により射精される精液中には精子が出て来なくなり、無精子症になる場合もあります。又、STDでなくても自然に加齢と共に無精子症となる場合も稀には存在しています。これ等に対してはかなりICSI(顕微授精)という方法で妊娠が可能になって来たとは言え、無視出来るわけではありません。




2. ED(勃起不全)

これも加齢や年齢に応じた社会的ストレスにより増加傾向にあります。単なるEDはバイアグラにより加療が可能でありますが、加齢やそれに伴ったストレスにより生ずる性欲減退も、不妊の原因となり得ています。