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Suwa Reproduction Center

不妊治療について  ー 不妊治療方法

排卵誘発方法

 

11.排卵誘発方法
 前述もしていますが,不妊治療を行うということは,そのままイコール排卵誘発を行うということではありません.世間の多くの方たちは(医者も含めて),子供がほしいと病院にかかれば誘発剤を飲むことが,誘発剤を飲ませることが,治療であると勘違いされているようですが,大きな誤りです.もちろん排卵誘発は,不妊治療の大きな一つの柱となる手法です.しかし,誰彼構わなく行う方法ではありません.以下にも述べますが副作用もあります.排卵誘発を行うには適応があります.

A)適応
 排卵誘発は,手を加えないと排卵がおこらない患者さんと,体外受精をおこなう患者さんが適応になります.排卵がなければ絶対に妊娠はしません.このため自力で排卵がおこらない患者さんには排卵をおこさなければならないので,排卵誘発の適応があります.また,排卵が無いわけではなく排卵はあるのだけれど,なかなか排卵がこないという場合にも(だからといって悪い卵ということはありません.),待っていればまあいいといえばいいのですが,病院に通院して下さっていると,"まだですねー.""まだですねー.""また,何日後に来て下さい."というのも申し訳ない気がして,手を出したくなり排卵誘発剤を使う展開になることもあります.体外受精では体外に卵を取り出して精子と受精させ培養を行うわけで,色々と改良は加えられていますが,まだ体外培養環境は体内環境を越えてはいないので,よい卵を数多く取り出すことが妊娠成立の重要なポイントになっています.このため,副作用はありますが,体外受精を行う際には副作用は覚悟の上で排卵誘発を行うことになります.  排卵誘発方法には大きく分けて以下の2種類の,内服薬を用いる方法と,注射薬を用いる方法があります.

B)治療の実際
1)内服治療
 患者さん自身の排卵を起こさせるホルモン(下垂体から分泌される2種類のホルモン,FSHとLH)の分泌を亢進させる方法で,内服薬でおこないます.この種の内服薬には2種類あり,効果の弱い薬はセキソビッド,効果の強い薬はクロミッドといいます(セキソビッドは本当に効果が弱いのでセキソビッドを一日に6錠10日間にわたって内服してもクロミッド一日1錠5日間内服には勝てません.このため,最近ではセキソビッドはほとんど用いていません.).〜〜これ以降はクロミッドに話を絞ります〜〜クロミッドには短期的な副作用がほとんどない大変使いやすい薬です.まれに霧視といって目の前に靄がかかったようになることがありますが.しかし,クロミッドは卵の成熟には効果がありますが,その反面女性ホルモン(エストロジェン)の作用を阻害するため,子宮内膜はやや薄く,頚管粘液の分泌は悪くなる傾向があります(セキソビッドは効果の弱い分,副作用もクロミッドほどではありません).このために,排卵は確かにおこしてくれるようにはなるのですが,かえって自分の首を絞めるというか,かえって妊娠しにくい状態を作ってしまう場合があります.内膜が薄くなれば着床しにくい状況が生まれ,頸管粘液が少なくなれば通常は精子がふつうに通り抜けられる頸管が,通り抜けられない関門として立ちはだかることになります.詳しく説明するとクロミッドは,エストロジェンと同じような構造を持ち,作用発現点であるエストロジェンレセプターをエストロジェンと競合して結合(エストロジェンよりも結合力ははるかに強い)することにより,効力を発揮する薬なのです.クロミッドが結合したエストロジェンレセプターはそれ以上の働きはストップしてしまい,エストロジェンが低下したと体の中では認識されます.エストロジェン(エストロジェンは卵巣でつくられます.)が低下したということは卵巣の働きが悪いせいだとホルモンの中枢器官では認識し,このため卵巣を刺激するFSH, LHのホルモンの分泌量が亢進し,卵巣刺激が強く行われるようになり,卵胞がたくさんできてきます.これがクロミッドの排卵誘発の作用機序なのですが,子宮内膜あるいは子宮頚管腺にあるエストロジェンレセプターにもクロミッドが結合しているため,エストロジェンの効果が発現されず,子宮内膜は薄く頚管粘液はでなくなってしまうのです.排卵がない人には,副作用はほとんどありませんし,排卵がおきないことには妊娠は絶対にしませんから,クロミッドは大変いい薬ということになりますが,排卵が自力でおきている方にとっては,かえって妊娠しにくい状態にされてしまう薬なわけです.また,ある程度のエストロジェンが分泌されていないとクロミッドは効力を発揮しないわけで,同じ月経不順,無月経という方の中にも,クロミッドが有効な人と全く効力がない人とがいます.しかし,内服療法では以下に述べる注射による治療法と比較して,重篤な副作用はありませんし,体に対する大きな負担もありません.月経がはじまって5日目から5日間内服するというのが基本的な一般的な使い方ですが,当院では様々なバリエーションを持って使用しています.

2)HMG−HCG療法
 もう一つは,外からFSH,LHのホルモンを投与する方法で,HMG製剤(フォリスチム,HMGフジ,HMGテーゾー,ゴナピュールなど)の筋肉注射をおこないます.この方法は連日の注射が必要で,卵胞が至適な大きさになったところでHCGという注射に切り換えて排卵を起こします(HCGの注射がLHと同様の働きをもっているために大量に投与することによりLHサージと同様の働きをし排卵を惹き起こすことができます.).この方法は強力な排卵誘発方法であり,内因性のエストロジェンに拮抗させるわけでもないので飲み薬で排卵がおこらなかった患者さんにも排卵を起こすことが可能となります.しかし,以下に述べますが,同時にいくつかの重篤な副作用が起きる可能性があります.先にも説明しましたが,体外受精を行うときには副作用は覚悟の上で排卵誘発を行うために連日のHMG注射を行いますが,一般不妊治療では体外受精の際以上に副作用が大きくなるので,連日の注射は行わず,2〜3日に一度の注射投与という形で最近は治療しています.また,内服薬が無効な患者さんでも,最初に注射をうっておいてから内服薬を使用すると有効なこともあるので,当院独自の副作用の少ない誘発方法を行っています.

[副作用]
1) 卵巣過剰刺激症候群(Ovarian Hyperstimulation Syndrome, OHSS)
 強力に排卵をおこすことにより,卵巣が大きく腫れあがることがあります.ふつうの排卵周期では1個だけの卵胞が大きくなり排卵が行われるのですが,HMG製剤を用いると一挙に10個位のたくさんの卵胞が成長してしまいます.それらが隣り合って大きくなっていくために,排卵がおきる際に互いの圧が干渉しあい,いくつかの卵胞が破れないで排卵がおきずにLUFS(黄体化非破裂卵巣症候群)がおきてしまうことが多々あります.通常3cm程度である卵巣が,排卵の前には4−6cmになり,排卵後には6−10cmにもなってしまいます.このため下腹部のはり感と痛みがおきます.また大量の女性ホルモンなどがでるために,血管の透過性が変わって血液から水分(血漿)成分だけが腹腔内に漏出しお腹の中に水(腹水)がたまり血液が濃い状態になります(脱水と同じ状態).腹水がたまるため,自覚症状としてはお腹がパンパンの状態になり,スカート等の腰周りがきつくなり,体重増加がおきます.ひどいときには胸水もたまります.また,血液状態は脱水がおきたのと同じようになるため,のどが渇き水分をたくさん飲むようになりますが,その割に尿は出ないで体重だけが増えていくということになります.血液は濃縮されて血が固まりやすくなり,血栓症(脳梗塞など)をおこすことが極稀にあります(今まで数例の報告があります).上記のような自覚症状がある場合には,あるいは何かおかしいと思ったら,すぐに病院に来てください.このまま様子を見ていてもいいものなのか,入院管理が必要になるのかは当方で判断させていただきます.妊娠していなければ,1週間ほどで症状はおさまってきますが,妊娠した場合にはこの症状は継続し,2ヶ月位続くこともあります.

2) 卵巣茎捻転
 大きく腫大した卵巣が捻れてしまう場合があります.卵巣(の茎部)が捻れると卵巣に流れ込む血液がストップしてしまうために,卵巣の組織の壊死(組織が死んでしまうこと)がおきてしまいます.まず,茎部が捻れはじめると,壁が薄い血管である静脈がストップします.こうなると動脈からの血液は卵巣に流入しているのにそれが流れ出せない状況になるわけで,卵巣の鬱血が急速に進みます.この際に急激に卵巣が腫大するため,卵巣茎捻転の際の特徴的な症状である,口では言い表せないくらいの激痛,七転八倒の痛みがおきます.更に茎部の捻転が進むと動脈もストップしてしまい,上述のごとく卵巣は壊死に陥ります.滅多に起きることはありませんが,このような症状があった場合には兎に角すぐに病院にきてください.手術を行います.茎捻転がおきてから1〜2時間以内に手術を行い卵巣を整復してあげれば,卵巣が壊死に陥ることはなく卵巣は助かります.しかし,不幸にして茎捻転をおこしてから時間が経過してしまった場合には,手術をおこない卵巣を摘出せざるおえません.

3) 多胎妊娠
 この治療法を用いると,排卵する卵の数をコントロールすることができないため,多くの卵が一度に排卵することになってしまいます.このため,多胎妊娠になる場合があります.内服薬のクロミッドでは多胎妊娠になってもほとんどは双胎妊娠までですが,HMG−HCG療法では稀ではありますが,3胎,4胎となることもあります.医学的にいえば,妊娠はやはり双胎妊娠までで,3胎(品胎)妊娠以上は母親にとっても,産まれてくる子供にとっても大変な困難を伴います.双胎妊娠も大変です.それでもよほどの事情がない限りはがんばっていただきたいですが,3胎妊娠以上の場合には基本的には減胎手術の相談が必要と考えています.

 (私の初めて出会った誘発剤を使用しての卵巣茎捻転)
 私は,医者になって2年目から不妊治療に関わってきました.最初は習慣流産から入り習慣流産の治療に不妊治療が重なるため,だんだんと不妊治療に入り込んでいきました.その当時は大学の流動期で,3年たったときには不妊をやっていた大学の上の先生方はすべて辞めてしまい,否が応でも私が責任者でやならなければならない立場になってしまいました.信州の不妊治療は全国レベルからかなり劣っていたために,独学で勉強して毎日毎日の治療を行っていました.そんななかで,クロミッドではどうしても排卵せずにHMGを使うしか排卵がおきないKさんという患者さんがいました.今のように工夫したHMG−HCG療法ではなく,型どおりのHMG−HCG療法をおこないKさんは卵巣は腫れましたが,妊娠に成功しました.今のように一日に何人も妊娠おめでとうございますといえる医療レベルではありませんでした.一週間に1〜2人妊娠すればよいような医療でした."よかった." と思っていたある日のことです.私は出張の日で他の病院に朝から行き外来を行い手術のお手伝いをして夜になってから大学に戻ってきました.するとKさんが入院してお腹を痛がっているではありませんか.症状からして茎捻転に間違いありません.朝から入院していたとのこと.他の先生方は役に立たないと思いながら,麻酔科に連絡を取り手術室を確保し,夜中に緊急手術を行いました.卵巣は片方が真っ黒になっており摘出するしかありませんでした.でも妊娠12週での発症だったので,手術はして卵巣が片方なくなってしましましたが,無事出産にいたり,めでたく1人の(女の子でした)母親になりました.そうこうしている内に,2人目をほしいとまた大学病院に来られ,HMGでしか排卵がおきないため,その治療を行い卵巣はまた腫れましたが再度妊娠し,2人目も無事出産されました.

 というところで,私はこちらの病院にお世話になることとなり移ってきてしまったので,Kさんのことは茎捻転の彼女としてしか覚えていないようになったのですが,しばらくして3人目をほしいといって諏訪マタニティーに来られたのです.昔に比べたら副作用のない工夫した排卵誘発を行って,なんとKさんは3人目の妊娠をし,無事出産をされました.とここまでの話なのですが,最近うちのスタッフがKさんのやっている薬局に偶然に入ったところ声をかけられたとのことで,感慨深く昔を思い出したわけです.

一口メモ 1
妊娠中に使用する薬の副作用について
 妊娠中に飲む薬について多くの人が気にされています.まずこの点についてご説明いたします.妊娠の極初期,すなわち妊娠4週以前(排卵がおわってから2週間,次の予定の生理が来るまでの間)に使用した薬剤については100%催奇形性はないと考えてよいと思われます.この間に使用した薬剤は,妊娠成立するならば全く異常をきたすことなく,胎児に影響をあたえた場合には妊娠成立しないという all or none 全か無かの法則に支配されます(ただし残留性のある薬剤,たとえば風疹のワクチンなどは問題になります).妊娠中に使用する薬剤で催奇形性という点で問題になるのは,妊娠4週から8週(特に妊娠4週から6週)の期間,胎児の器官が形成される頃に使用される場合が主です.多くの薬は大量に使用するわけではないので,この期間に使用されてもほとんど問題になりませんが,心配であるならばこの期間に注意を払えば十分であると思います.妊娠8週をすぎれば,催奇形性の点での影響はかなり小さくなります.重要臓器はほとんど完成しているので大きな異常をきたすわけではありませんが,外性器が完成するのは妊娠14週頃までなので,このころまでが一応注意が必要な時期と考えてよいと思われます(ただし,睾丸が陰嚢の中に下りてくるにはまだ時間を要するので,停留睾丸のみはこの限りではありません).
妊娠16週をすぎれば,催奇形性という点では問題はなくなり,薬剤の胎児毒性という点に問題が移ります.アミノグリコシド系の抗生剤の聴覚神経障害などがあります.
 ここまで薬剤の影響について話してきましたが,途中でもふれているように,ほとんどの薬剤は大量に使用するわけではないし,催奇形性が報告されている薬剤はわずかであるので,妊娠中に使用する薬剤にめくじらをたてる必要はないと思いますし,当院ではその点を十分に理解して対応していますので,特に心配ならば医師に相談してください.

一口メモ 2
月経不順の方に対するピルの効果
 当院では,現在のところ挙児希望がない月経不順の方にピル(ソフィアAあるいはプラノバール)あるいはエストラダームM(プレマリン)−ヒスロンを処方して治療を行っています.この治療の効果が正しくご理解されていない方もいらっしゃるようなので,ここで詳しく説明させていただきます.
 月経不順のある方は,ホルモン剤を毎月飲み続けて毎月生理をこさせていることがよいと思われます.これは生理がくることが必要なのではなく,生理をこさせるために必要なエストロジェン(いわゆる女性ホルモン)というホルモンが,ヒトにとって絶対的に必要なものだからです.このエストロジェンは命の泉とも言うべきもので,骨粗鬆症の予防,高脂血症の予防,動脈硬化の予防,老人性痴呆予防など数え出せばきりがないほどの働きがあります.現在年齢が若い方の場合には,御自分の体に何の不調も感じていないと思いますが,50才,60才と年齢を重ねていったときに,若い頃のエストロジェンの効果がでてくると思います.効果を挙げてきましたがエストロジェンには害もあります.第一に血栓症を起こすことです.もし,治療を受けられている方がタバコを吸っているようならば,早急に禁煙されることをすすめます.タバコとエストロジェンの併用は血栓症を起こす危険性を何倍にも上昇させます.第二の害として乳ガン,子宮体癌の頻度が高くなります.このようにエストロジェンの連用は,血栓症,乳ガン,子宮体癌の発生頻度を高くします.しかし,エストロジェンにプロゲステロン(黄体ホルモン)を併用すると,この害はなくなります(使用してない方と同じくらいの発生頻度,有意差がない発生頻度になります).ですから,エストロジェンとプロゲステロンを併用していくことがよいということで,エストロジェンとプロゲステロンの合剤のピル,あるいは,エストロジェン製剤のプレマリン,プロゲステロン製剤のヒスロンの併用を当院では行っています.どちらの方法も有効ですが,月経量が多くていやだとか月経痛が気になる方はピルの方が症状が軽くてすみます.この治療を行っている方は,月経は毎月きますが,排卵がおきているわけではないので,妊娠することはありません.妊娠を希望するようになったら,異なる治療を行えば妊娠はできます.妊娠できないのではと不安に思っている方のいらっしゃるようですが,心配はありません.
 この治療はエストロジェンを補うことがポイントですので,数ヶ月に1回月経が来るよう治療すればいいわけではなくでは,毎月服用する必要があります. 
 人によって胸が張るということを訴えられる方がいますが,この症状は黄体ホルモン特有なもので不快で不快でどうしようもないのであればしょうがないですが,多少のものであれば様子を見てもいいでしょう.また,時々不正出血があると訴えられる方もいます.これに関してはのみ忘れがもっとみ多い原因です.そうでなければ使用しているホルモン量が少ないという場合もありますので担当医に相談してください.