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Suwa Reproduction Center

不妊治療について  ー 不妊治療方法

体外受精・胚移植

14.体外受精・胚移植  精子と卵子がであい受精し,受精卵が着床すれば妊娠が成立するわけです.妊娠が成立しない原因は細かく数えればいくつもの要因がありますが,突き詰めていえば,精子がないあるいは卵子がないという場合をのぞけば,受精をしていないのか着床をしていないのかの2つの原因に集約できます.着床がおきたことは尿中あるいは血中のHCGというホルモンの測定(妊娠反応)によっておこなわれます.受精がおきたことは研究室レベルでは血中のEPF(early pregnancy factor)やPAF(platelet activating factor)などの測定をおこなうことによってできることはわかっていますが,大変煩雑であることと信用性に今だ問題があり実用化されてはおりません.このため妊娠しないという患者さんの原因が受精にあるのか着床にあるのかを区別することまでは現時点ではできません.

 体外受精は決して特殊な治療ではなく,現在は不妊治療の一つの選択肢でしかない通常の治療方法です.受精段階までを確実におこない,上記の不妊原因の一つをクリアする点で,受精段階さえも運まかせという一般不妊治療よりは一歩進んだ治療になっているにすぎません.しかし,この点が他の治療法との大きな違いです.(但し,多くの方が勘違いされていますが,体外受精をおこない妊娠にいたらないと着床障害があると思われているようです.体外受精の胚移植は着床の直前で移植しているわけではないので,受精卵が移植後成長(細胞分裂)しないで途中でダメになっていて妊娠していないのか,本当の着床障害があるために妊娠に至っていないのか区別がつきません.最近おこなっている胚盤胞移植でHatched Blastocyst stage まで到達したものを完璧に移植した場合にのみ,ほぼ純然たる着床障害の存在を指摘することが可能になります.)

 体外受精は体の中,卵管の膨大部と呼ばれている部分でおこなわれる受精現象を,体外でおこなうという治療方法です.基本的には,卵子を女性の体から取り出し,精液を男性に masturbation で取り出してもらい,これらを培養液の中で受精させ,分割した受精卵を子宮の中に戻します.ただ,これだけのことです.しかし,これだけのことを成功させることがなかなか難しいのです.  世界的に見れば1978年にイギリスのSteptoeとEdwardsによって世界最初の体外受精児の誕生があり(そのルイーズちゃんも子供を産む年齢になりました),日本でも東北大学のチームによって1984年に最初の症例が報告されてから,すでに30年の歴史を持つ治療法として様々な改良が加えられてきました.しかし,まだ当院の体外受精の成功率も40%といったところで,まだまだ改良の余地のある治療法なのです.

[適応]
 体外受精には絶対的な適応と相対的な適応があります
  絶対的な適応
        1)卵管がない場合(手術で取ってしまった)あるいは形成手術不能な卵管閉塞 
        2)抗精子抗体陽性 
        3)男性の精子の数が少ない   

 相対的な適応
(妊娠が成立するための方法.すなわち妊娠の第一歩,精子と卵子を出会わさせるためには 1)普通に性交をするか, 2)人工授精をおこない精子を子宮の中にいれこむか,3)両者を体外にとりだし強制的にであわせる(体外受精).この3つの方法しかありません.このため,性交後試験(Huhner Test)が良好であるにもかかわらず妊娠に至らない患者さん,性交後検査の結果が不良で人工授精を繰り返しおこなっても妊娠に至らない患者さんにいとっては,その他の妊娠するための手段は体外受精しかありません.)
 このため,相対的な適応として
       1)性交後試験(Huhner Test)が良好であるにもかかわらず妊娠に至らない患者さん
       2)人工授精を繰り返しおこなっても妊娠に至らない患者さん
 またこのほかに子宮内膜症と診断された方は早い時点でこの治療方法を考えた方がよいし,HMG-HCG療法でしか排卵がおきない患者さんも何度か治療を受けてダメなら体外受精を選択したほうがよいと思われます.極度の乏精子症の患者さんは顕微授精の適応になります.これは1個の卵子の中に1個の精子をいれこむ方法で,高い受精率が得られています.また,無精子症の患者さんは精巣上体あるいは睾丸から精子を回収し顕微授精を行います.

[方法]
 月経2日目(d2)に受診していただき,卵巣を超音波検査で確認します.その状態により,また患者さんの希望により,排卵誘発方法として自然周期,自然周期変法,刺激周期,刺激周期変法のいずれかを選択します.

1.自然周期の場合
 何も薬は使用しないで,d10−11に診察.卵胞の大きさおよびホルモン値を確認して,さらに診察が必要な場合には診察日を指定します.至適な卵胞の大きさ,ホルモンの値になったならばナファレリールのスプレー(排卵させるスプレー)を決定します.以下の刺激周期では排卵抑制剤を使用しているために,思わぬ時の排卵はありませんが,この自然周期では患者さん自身の排卵のシグナル(LHサージ)がでてしまう場合があるために,採卵の際にすでに排卵してしまっていて,卵かとれないということがあります.また,採卵は朝から行いますが変則的に昼からの採卵になってしまう場合もあります.しかし,単に採卵という作業,負担が加わるだけで,その他は全くいつもの状態と変わりはありませんので,体に対する負担はあまりありません.そのため希望されれば毎周期おこなうことが可能です.

2.自然周期変法の場合
 クロミッドをd3より夕食後に一日一回一錠ずつ内服.d7及びd9にHMGの注射を追加して,至適な卵胞の大きさ,ホルモンの値になったならばナファレリールのスプレー決定します.この方法では複数個の卵の採取が期待されるので,自然周期よりの高い妊娠率が期待できます.しかし,クロミッドという薬の副作用で着床すべき子宮内膜が薄くなってしまい,期待通りの結果が得られないことも多々あります.

3.刺激周期の場合
 自然排卵を抑える目的でd2にリュープリンの注射,あるいはd2よりナファレリール(1日2回(12時間おき),片鼻1回)の鼻腔噴霧を開始します.
 d3より毎日HMG製剤(排卵誘発剤の注射薬)の筋肉注射をおこないます.d7に超音波検査,ホルモン検査をおこない,さらに刺激が必要ならばHMG投与を続け,自然周期と同様に至適な卵胞の大きさ,ホルモン値になったところでHCGの注射(排卵させる注射)の決定をします.  刺激周期では一度にたくさんの卵ができるので,自然周期と比較すると妊娠成立しやすい傾向があります.しかし,体に対する負担,卵巣に対する負担が大きく2−3ヶ月に1回しかおこなえません.また,胚移植後,卵巣が腫大し,お腹の中に水がたまり,いわゆる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になることがあります.排卵誘発法の項でも述べていますが,重症の場合には入院管理が必要になることもあります.余剰卵ができた際にはすべて凍結保存し,別の月経周期に解凍して胚移植します.

4.刺激周期変法の場合
 上記の刺激周期の場合,d2より使用するナファレリール,リュープリンの影響で早期黄体化(排卵する前に排卵後にでるはずの黄体ホルモンがでてしまうこと)がおき,キャンセル周期になってしまうことがあります.このため,刺激周期の変法では,上記のスプレーは使用せずにd3より毎日HMG製剤(排卵誘発剤の注射薬)の筋肉注射をおこないます.d7に超音波検査をおこない,さらに刺激が必要ならばHMG 投与を続け,排卵が近くなったらガニレストあるいはセトロタイドという排卵を抑制する注射薬(Gn-RH antagonist)を併用します.自然周期と同様に至適な卵胞の大きさ,ホルモン値になったところでナファレリールのスプレーを決定します.
 刺激周期変法では刺激周期と同様,一度にたくさんの卵ができるので,自然周期と比較すると妊娠率は高いです.また,現在までの解析でflesh新鮮胚で戻した場合と比較して凍結胚移植の妊娠率は圧倒的に高く,この方法刺激周期変法で採卵した場合には,全凍結して別周期で凍結胚移植を行います.
 しかし,体に対する負担,卵巣に対する負担が大きく2-3ヶ月に1回しか行えません.また,ガニレスト,セトロタイドという薬は非常に高価であるため,刺激周期より費用がかかります.利点は,凍結胚移植で妊娠率が高いことと,HCGの注射を使用しないので,採卵後,卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になることはありません.

 自然周期,自然周期変法および刺激周期変法でのナファレリールのスプレーあるいは刺激周期でのHCGの注射(HCG10,000IU)は排卵を惹起させる目的でおこないます.このスプレーをしてから約33-34時間,注射を打ってから約 36時間で排卵にいたります.そこで,外来受診時に決定されたら,決定日の夜23:00にスプレーを,あるいは夜21:30に注射をおこないます(ナサニールなどの鼻腔スプレー薬で排卵を抑制してきた患者さんはこのHCG注射の時間までスプレーしてください.注射以降は不要です).翌々日の7:00〜8:00に採卵をおこない卵子を回収します.採卵はそれほど時間はかかりませんが,超音波ガイド下に経膣的に卵胞に針をさして卵を回収するために,痛みとまれに操作後腹腔内出血が起きる場合があります.基本的には外来扱いで採卵を行います.採卵当日は6:00までに来院していただき,静脈を確保し痛みを感じないように麻酔をかけておこないます.前述もいたしましたが,採卵後大量の腹腔内出血がおきてしまった場合には,最悪開腹手術をおこない止血操作をしなければならない可能性もあります.

 卵子が回収された時点で,御主人に精液を採取(採精)していただきます.洗浄をおこない運動良好精子を卵子にふりかけます(顕微授精が必要な場合には顕微授精を行います).
 採卵翌日午前中に受精が起きているかの確認をおこないます.この段階でしか多精子受精の判断はできないので,この時点での確認は大変重要です(多精子受精卵も翌日にはきれいな分割卵となりますが,正常な妊娠には絶対になりません).異常受精卵は取り除き培養を続行します.




前核期胚 多精子受精


 翌日(採卵後2日目)分割卵となった胚を移植します.胚移植は2個までとします.前述もしましたが余剰卵は,凍結して保存し別の月経周期で解凍して戻します.

 胚移植:胚移植は採卵後2日目の午後0:05からおこないます.前日受精が確認された卵でも,分割しない場合があるので,この日の午前中に再確認し,状態のいい卵のみを移植します.




Grade1 Grade2 Grade3 Grade4 Grade5



 血管確保を行い,子宮の収縮抑制剤を点滴し,移植を行います.患者さんの状態(子宮の位置)によって経頚管的に受精卵を戻す場合と経子宮筋層的に針をさして子宮内腔に受精卵を戻す場合があります.移植後は子宮が前屈の方はうつぶせで,子宮が後屈の方は仰向けで3時間休んでいただきます.このあと特に問題なければ帰宅していただきます.胚移植は子宮腔内に行いますが,まれに卵管妊娠などの子宮外妊娠を起こすことがあります.
 採卵後15日目(胚移植後13日目)血液検査で妊娠反応の確認をおこないます.

 体外受精を行うという選択は,患者さんにとっては非常に大きな決断を要するものです.別表に掲げますが費用がかかります.また,成功率は当院の成績で約4割です.必ずしも体外受精を行えば妊娠するわけではありません.




顕微授精

 顕微授精とは,精子の数が極端に少ない患者さんに対して,卵子に直接精子を入れ込む手技のことをいいます.以前顕微授精が開始された頃は,透明帯を一部分切開して精子が入りやすくする透明帯部分切開法 PZD(partial zona disection),透明帯と卵細胞質とのスペースに数匹の精子をいれる囲卵腔内精子注入法 SUZI(sub-zonal injection)という手技が行われていましたが,1992年ベルギーのチームが上述もした卵細胞内精子注入法 ICSI(intra-cytoplasmic sperm injection)の高い受精率を報告して以来,この卵子の細胞質内に一匹の精子をいれこむというICSIが顕微授精の主流になりました.いままで体外受精とはいっても最後の受精する精子の選択は自然の力に任されていましたが,顕微授精は最後の精子の選択までをも人の手で行うという点で,最初は問題視するような発言がありましたが,現在ではその安全性(奇形児の発生率)は十分に確認されています.顕微授精の適応は1)正常精子数が20万以下の場合,2)無精子症(精巣上体精子,精巣精子)3)通常の体外受精を行っても1回以上正常受精が認められない場合です.




 
顕微授精  


 顕微授精の適応となったときであっても,患者さんにやっていただくことに,通常の体外受精を行うときと何等変わりはありません.同様に採卵を行い,同様に採精を行っていただき,その後の当方で行う処置のみが変わります.
 顕微授精(ICSI)の治療方法が確立してから,まだ,15年ほどしか経過していません.ベルギーのチームもその他の研究機関のチームも顕微授精で産まれた子供の予後調査を行って発表しています.それによると,顕微授精で生まれた子供においては,通常の体外受精で産まれた子供や自然妊娠で産まれた子供と比較して,染色体異常の発生率,先天奇形の発生率,知的発達などに大きな違いはないとされています.しかし,体外受精の治療法以上に短い15年という歴史しかない治療法であるために今後の更なる検討が必要とされています.

[適応]
顕微授精の適応は
  1)正常精子数が20万以下の場合
  2)無精子症(精巣上体精子,精巣精子を使用する場合)
  3)通常の体外受精を行っても1回以上正常受精が認められない場合




精巣上体精子回収術、精巣精子回収術

 無精子症の患者さんに対して,いままでは詳しい検査をすることもなく,AIDという他人の精子を子宮に入れ込む治療が行われてきました.しかし,顕微授精の方法ができたことで,射出精液には精子が存在しなくとも,精巣上体や,精巣には精子が存在することがあり,その精子を用いて受精させることが可能となりました.この精子を回収する方法は,施設によって異なりますが,当院では患者さんに対する侵襲がなるべく小さくなる方法で行っています.採卵の時と同じように静脈麻酔をかけ,痛みがないようにして行います.精巣上体から精子を回収する際には,精巣上体に針を刺すだけです.精巣上体から精子が回収されない場合には精巣をやや太い針でさし,少量の組織を取り出しそこから精子を探します.術前の血液検査(ホルモン検査)で回収できる可能性が高いか低いかの予測は可能です.副作用として,まれに針の穿刺部位から出血をして血腫をつくることがあります.この際は手術をして止血し血腫除去を行わなければならない場合があります.また,人により様々ではありますが,回収術を行った後一週間ほど痛みが残る場合もあります.
 この方法で,今までは男性にとって自分自身の子供を持ちうる可能性ができました.しかし,精巣からも精子が回収され ない場合には,従来どうりAIDしか方法はありません.





Assisted Hatching

 体外受精の成功を導くためのポイントは,卵の質と子宮内膜の質,厚さおよび胚移植の際の技術,この3点につきます.しかし,体外受精を行っていると3拍子そろっているにも関わらず,なかなか妊娠にいたらない患者さんがいます.この中には良い状態の胚を戻しても前述した胚の外側をおおっている透明帯があつくて内の細胞がそれを破ることができずに,着床にいたっていないという方が含まれます.そこで3回以上いい状態の卵を戻しているにも関わらず妊娠にいたらない患者さんは,相談の上,assisted Hatchingという技術を用いて胚移植を行います.この技術は透明帯に薬剤を吹きかけて,透明帯を薄くし,より,内の細胞が分裂して胚盤胞となった際,透明帯を破りやすくさせるというものです.
 現在は,レーザーを用いて透明体を除去する方法を採用しています.また.当院での検討でassisted hatchingによって有意の妊娠率の向上がはかられたため,全例の方に行っています.以前,この技術で一卵性双胎の増加が報告されたことがありましたが,現在は否定的な見解が多く,当院での検討でも一卵性の双胎の増加は認められていません.



 
胚盤胞移植  



胚盤胞移植

 胚盤胞移植とは,採卵を終えて受精した胚(卵)を通常は2日目(4細胞期胚)にもどしますが,5日目まで培養室内で培養しさらに分割が進んだ状態の胚(胚盤胞)を戻すという方法です.いままでは,5日目まで培養することは難しく,途中で分割がストップしてしまうことが多かったのですが,培養技術及び培養液の向上で胚盤胞移植が可能となりました.従来の胚移植と比較して以下の利点があります.
1.2日目の状態では区別がつかなかった胚の良し悪しの判断が可能なため,更によい良好胚のみを移植できます.このため,少ない数の胚移植で妊娠が期待できます.
2.子宮のなかに浮遊しているわけではありませんが,移植して着床するまで4日間は胚はただおかれているだけの状態であったため,子宮の収縮などで少なからずの胚が子宮外に押し出されてしまい妊娠に至らなかったと考えられます.胚盤胞移植では1日だけ子宮内にあり,その後すぐに着床するため,1日だけを何とかうまく子宮内にとどめておきさえすれば妊娠のチャンスが生まれます.子宮の収縮は2日目より5日目の方が少ないことは証明されています.
3.当院では2日目から5日目までの子宮の収縮をおされるためにいろいろ工夫していました.しかしそのために,内服していただく薬が多くなってしまっていました.胚盤胞移植では,内服薬が少なくてすむようになります.
 欠点としては,
1.いままで2日目では移植可能だった人が,2日目から5日目までの間に胚の成長が止まってしまい戻せなくなってしまう可能性があります.

 当院ではさらに妊娠しやすいように,胚盤胞移植の場合にはすべてAssisted Hatchingを併用します.また,当院では今までも移植胚数を2個以下に制限することにより三胎以上の多胎妊娠を防いできました.しかし,昨今の産科状況では,双胎妊娠であっても受け入れてくれる病院はごくわずかであるのが現状です.当院の統計分析で胚盤胞移植では妊娠率は6割となり,双胎妊娠率25%であることが判明いたしました.このため胚盤胞移植胚は1個に制限しています.一個に制限しても40%以上の妊娠率が期待できます(当院統計より).




4細胞期胚(2日目胚) 胚盤胞(5日目胚)


凍結胚移植

配偶子(卵子・精子)・胚の凍結保存と融解配偶子・融解胚を用いた胚移植微
   当院では,体外受精・胚移植や顕微授精の治療において,多胎妊娠を防止するために胚移植は最大2個までとし,胚盤胞では1個までに制限しています.このため受精卵が多数得られた場合には,余剰胚が生じます.この際,新鮮胚移植で妊娠にいたらなかった場合に備えて(あるいは,次回の妊娠,第2子・第3子に備えて)余剰胚を凍結して保存することが可能です.日本での受精卵凍結・融解胚移植の妊娠は年間約5,000人あまりの児が誕生しており有効性は確立しています.
 当院では,1996年 体外受精をはじめてから余剰胚ができた際には必ず凍結保存を行っています.当院ではd2移植を基本にしており,d2で形状の優れた余剰胚はd2で凍結します.あまり形状の良くない余剰胚はd5胚盤胞まで培養し,胚盤胞まで到達したならば凍結します.
 新鮮胚で妊娠にいたらなかった場合に,凍結胚を用いて治療を行います.正常の月経周期のある方は自然に排卵したことを確認して,その2日後(d2凍結胚移植)あるいはその5日後(d5凍結胚盤胞移植)に移植します.正常の月経周期がない,言い換えると月経周期が不順な方は,ホルモン剤を用いて人工的に子宮内膜をつくり,着床環境を整え,充分な子宮内膜の状態になったところで凍結胚移植を行います.
当院の凍結胚移植では,良い状態の余剰胚を凍結しているため,成功率は50%を越えています.しかし,一度凍結した胚は融解したときに必ずしも良い状態で戻るわけではありません.融解したときに胚がダメになってしまっていて,移植できない場合もあります.
 また,体外受精あるいは顕微授精に備えて,事前に精子を凍結保存することも可能です,しかし凍結融解精子は運動性がかなり悪くなってしまうため,顕微授精による治療でないと行えません.また顕微授精の際に有効な精子がない場合,未受精卵(受精していない卵)を凍結保存することも可能です.

[対象]
1)受精胚凍結
    体外受精あるいは顕微授精での胚移植において,胚移植に至らなかった余剰卵が生じた御夫婦.
2)精子凍結
    a)体外受精あるいは顕微授精での治療の際,御主人の都合がつかず,事前に精子の凍結を希望さ    れる御夫婦.
    b)精巣上体精子吸引術あるいは精巣精子回収術で得られた精子を使用しての顕微授精治療で,余    剰精子が生じた御夫婦
3)未受精卵凍結
    体外受精あるいは顕微授精での治療の際,御主人の精子が得られないため治療を中断せざるおえない御夫婦.

[方法]
1)通常の体外受精あるいは顕微授精を行い,当院ではd2移植を基本にしており,d2胚移植を行った後,余剰卵が生じた場合,前述のごとくd2で形状の優れた余剰胚はd2で凍結します.あまり形状の良くない余剰胚はd5胚盤胞まで培養し,胚盤胞まで到達したならば凍結します.

2)受精胚あるいは未受精卵の凍結は,急速凍結法(ガラス化法)という方法を用いて凍結した後,液体窒素中に保存します.精子の凍結は精子専用の凍結保護剤と平衡化させた後,緩慢法で凍結,液体窒素中に保存します.

3)凍結受精胚あるいは凍結未受精卵の融解は,急速融解法を用います.凍結精子の融解は緩慢法で行います.これも前述のごとく凍結融解精子は運動性がかなり悪くなってしまうため,顕微授精による治療でないと行えません.

4)正常の月経周期のある方は自然に排卵したことを確認して,その2日後(d2凍結胚移植)あるいはその5日後(d5凍結胚盤胞移植)に移植します.正常の月経周期がない,言い換えると月経周期が不順な方は,ホルモン剤を用いて人工的に子宮内膜をつくり,着床環境を整え,充分な子宮内膜の状態になったところで凍結胚移植を行います.

5)保存は半永久的に可能です.しかし,保存及び破棄に関しては以下の条項に基づき管理させていただきます,住所変更などのある場合には,必ず当施設に連絡するようお願い申し上げます.
  a)破棄を希望される場合には,当施設まで連絡を下さい.当施設で患者さんに断りなく破棄することはいたしません.保存料金が払い込まれている限りは,当施設で責任もって管理いたします.
b)6ヶ月以上凍結保存料金を滞納された方は,再確認の上破棄させていただきます,なお,住所変更,連絡先変連絡先変更などで連絡が途絶え,再確認が行えない場合は,自動的に破棄とさせていただきます.
c)離婚された場合には,原則として破棄させていただきます.
d)御夫婦いづれかにご不幸があった場合には,原則として破棄させたいただきます.

[副作用]
1)一度凍結した胚は融解したときに必ずしも良い状態で戻るわけではありません.融解したときに胚がダメになってしまっていて,移植できない場合もあります.

2)血液製剤による感染症
 現在までにこの副作用は報告されたことがありませんが,卵や胚を培養する際に使用する培養液の中にアルブミンという血液中の成分が添加されています.これは胚などが発育するために必要不可欠な成分なのですが,血液からつくられているものなので感染の危険が存在します.もちろん十分に検査の行き届いた製剤からつくられているものですので今までに副作用報告もないわけですが,フィブリノーゲンの肝炎の副作用の様に後から問題になる場合があり得るかもしれません.

3)多胎妊娠
 刺激周期で採卵を行った場合には,多くの卵ができます.胚移植は最大2個までとし,胚盤胞では1個までに制限しているので一般的には最大2人の妊娠ですが,多胎妊娠になる場合があります.双胎妊娠では単胎妊娠と比較して,周産期のトラブルが多い事が知られています(切迫流早産,未熟児など).

4)出生児の異常
 現在までに,凍結融解して妊娠した児の異常と通常妊娠時の異常との差はほとんど無いという報告がされています.しかし,長い予後調査はできていません.このため,今後の更なる検討が必要とされています.


SEET法(シート法)

 〜Stimulation of Endometrium-Embryo Transfer;子宮内膜刺激胚移植法〜

1.SEET法とは?
自然妊娠では,受精卵(胚)は卵管で受精し,細胞分裂を繰り返しながら5〜6日間かけ子宮に向けて移動し,胚盤胞になる頃に子宮に到着します.
胚は卵管内で成長しながら子宮内膜にシグナルを送り,着床準備をするかもしれないと考えられています.このプロセスをIVF-ETに応用したのがSEET法です.

2.SEET法の方法
受精卵を体外で5〜6日間培養し,胚盤胞まで育てます.そして,凍結融解胚盤胞移植をする2日前に,胚盤胞を培養していた培養液②を解凍し子宮の中に注入します.(この培養液に含まれている胚からの物質により子宮は刺激を受け,胚を受け入れやすい状態になるよう準備を開始すると考えられています.)
その後,融解した胚盤胞をこの子宮内に移植します.



体外受精・胚移植のタイムテーブル1
-自然周期-
月経

D1  
D2 診察(超音波検査で卵巣の状態を確認)
D3  
D4  
D5  
D6  
D7  
D8  
D9 診察(卵胞の数、ホルモン値測定)
D10
D11 至適な卵胞経、ホルモン値になったらスプレー決定 夜23:00、ナファレリールスプレー
D12  
D13 朝6:30までに来院 朝7:00-8:00に静脈麻酔下に採卵、採卵確認後、採精
D14 受精確認
D15 午後12:00-13:00 胚移植(分割卵を子宮に戻します)3時間ベッド上安静、その後帰宅


体外受精・胚移植のタイムテーブル2
-自然周変法-
D1  
D2 診察(超音波検査で卵巣の状態を確認)
D3 (クロミッド内服開始)
D4  
D5  
D6  
D7 診察(卵胞の数、ホルモン値測定)HMG注射
D8  
D9 HMG注射
D10  
D11 至適な卵胞経、ホルモン値になったらスプレー決定 夜23:00、ナファレリールスプレー
D12  
D13 朝6:30までに来院 朝7:00-8:00に静脈麻酔下に採卵、採卵確認後、採精 
D14 受精確認
D15 午後12:00-13:00 胚移植(分割卵を子宮に戻します) 3時間ベッド上安静、その後帰宅


体外受精・胚移植のタイムテーブル3
-刺激周期-
D1  
D2 診察(超音波検査で卵巣の状態を確認) 排卵抑制剤、リュープリン注射、ナファレリール使用開始
D3 卵巣刺激開始 HMG注射
D4 HMG注射
D5 HMG注射
D6 HMG注射
D7 診察(卵胞の数、ホルモン値測定)HMG注射
D8 HMG注射
D9 HMG注射
D10 HMG注射
D11 至適な卵胞経、ホルモン値になったらHCG決定、夜21:30にHCG10,000IU注射
D12  
D13 朝6:30までに来院 朝7:00-8:00に静脈麻酔下に採卵、採卵確認後、採精 
D14 受精確認
D15 午後12:00-13:00 胚移植(分割卵を子宮に戻します) 3時間ベッド上安静、その後帰宅


体外受精・胚移植のタイムテーブル4
-刺激周期-
D1  
D2 診察(超音波検査で卵巣の状態を確認)開始
D3

卵巣刺激開始、HMG注射

D4 HMG注射
D5 HMG注射
D6 HMG注射
D7 診察(卵胞の数、ホルモン値測定)、HMG注射
D8 HMG注射、セトロタイド注射
D9 HMG注射、セトロタイド注射
D10 HMG注射、セトロタイド注射
D11 至適な卵胞経、ホルモン値になったらスプレー決定 夜23:00、ナファレリールスプレー
D12  
D13 朝6:30までに来院 朝7:00-8:00に静脈麻酔下に採卵、採卵確認後、採精 
D14 受精確認
D15 午後12:00-13:00 胚移植(分割卵を子宮に戻します) 3時間ベッド上安静、その後帰宅

[副作用]
上記の説明の中にもふれていますが,体外受精胚移植は100%安全にできるという方法ではありません.肉体的侵襲の加わるリスクはある方法です.

1)腹腔内出血
 採卵とは膣から膣壁を通して卵巣の卵胞に針を刺し,卵胞の中の卵子を吸引する方法です.このため卵巣あるいは膣壁から出血がおきる場合があります.通常はガーゼによる圧迫止血で問題なく止血されますが,まれに卵巣からの出血が止まらないで,開腹手術を行い止血を図らなければならない場合があります.お腹の中に出血(腹腔内出血)がおきている場合には,腹痛がおきます.家に帰ってからもおかしいと感じることがありましたら病院に連絡を入れて下さい.なお,当院では今までに一万件以上の採卵を行っていますが,開腹手術を行った症例はありません.しかし,いつおきてもおかしくない副作用ですので,いつも細心の注意をして採卵を行っています.

2)骨盤内感染
 採卵後,細菌などによる骨盤内感染を起こすことがまれにあります.抗生剤の投与で軽快しますが,入院して治療が必要になる場合もあります.

3)卵巣過剰刺激症候群(Ovarian Hyperstimulation Syndrome, OHSS)
 強力に排卵を起こすことにより,卵巣が大きく腫れあがることがあります.通常3cm程度である卵巣が,排卵の前には4−6cmになり,排卵後には6−10cmにもなります.このため下腹部のはり感と多少の痛みがおきます.また大量の女性ホルモンがでるために,お腹の中に水(腹水)がたまり,自覚症状としてはスカート等の腰周りがきつくなり,体重増加と口渇を感じます.ひどいときには胸水もたまります.血液は濃縮されて血が固まりやすくなり,血栓症(脳梗塞など)をおこすことが極稀にあります(今まで数例の報告があります).上記のような自覚症状がある場合には,すぐに病院に来ていただく必要がありますし,入院管理が必要になる場合もあります.妊娠していなければ,1週間ほどで症状はおさまってきますが,妊娠した場合にはこの症状は継続し,3ヶ月位続くこともあります.

4)卵巣茎捻転
 大きく腫大した卵巣が捻れてしまう場合があります.卵巣(の茎部)が捻れると卵巣に流れ込む血液がストップしてしまうために,卵巣の組織の壊死(組織が死んでしますこと)がおきてしまいます.口では言い表せないくらいの激痛,七転八倒の痛みが特徴的な症状です.滅多に起きることはありませんが,不幸にしてこのようなことになってしまった場合には,緊急開腹手術をおこない卵巣を摘出せざるおえません.

5)血液製剤による感染症
 現在までにこの副作用は報告されたことがありませんが,卵や胚を培養する際に使用する培養液の中にアルブミンという血液中の成分が添加されています.これは胚などが発育するために必要不可欠な成分なのですが,血液からつくられているものなので感染の危険が存在します.もちろん十分に検査の行き届いた製剤からつくられているものですので今までに副作用報告もないわけですが,フィブリノーゲンの肝炎の副作用の様に後から問題になる場合があり得るかもしれません.

6)多胎妊娠
 刺激周期で採卵を行った場合には,多くの卵ができます.胚移植は最大2個までとし,胚盤胞では1個までに制限しているので一般的には最大2人の妊娠ですが,多胎妊娠になる場合があります.双胎妊娠では単胎妊娠と比較して,周産期のトラブルが多い事が知られています(切迫流早産,未熟児など).

7)出生児の異常
(体外受精)
 現在までに,体外受精児の異常と通常妊娠時の異常との差はほとんど無いという報告がされています.
また,世界初の体外受精児であるルイーズちゃんから子供が産まれており,2世代に渡っては異常がないということはわかってきています.しかし,ルイーズちゃん誕生から30年ぐらいの歴史しかないことも事実で,それ以上の長い予後調査はできていません.このため,今後の更なる検討が必要とされています.

(顕微授精)
 顕微授精(ICSI)の治療方法が確立してから,まだ,15年ほどしか経過していません.ベルギーのチームもその他の研究機関のチームも顕微授精で産まれた子供の予後調査を行って発表しています.それによると,顕微授精で生まれた子供においては,通常の体外受精で産まれた子供や自然妊娠で産まれた子供と比較して,染色体異常の発生率,先天奇形の発生率,知的発達などに大きな違いはないとされています.しかし,体外受精の治療法以上に短い15年という歴史しかない治療法であるために今後の更なる検討が必要とされています.また,男性不妊症の方のうち,Y染色体上の遺伝子に原因がある方から誕生した男児の場合,そのY染色体上の遺伝子を引き継ぎ,将来的にその児の精子が少なくなることが予想されます.

[カウンセリング]
 体外受精を希望されている患者さんには,実施前に必ず当院,こうのとり相談室を利用していただくようにしています.こうのとり相談室では心の問題について当院専属のカウンセラーがカウンセリングを行っています.また,この相談室は予約制でも行っていますので,ゆっくり相談されたいという方は,御利用下さい.また当院こうのとり相談室は,カウンセラーだけでなく,カウンセリング教育を受けた看護師及び培養士も参加していますので,体外受精全般に渡ったご質問にも専門的に答えることが可能です.

[日本産科婦人科学会への報告・各種学会での発表]
 私どもは,体外受精で出生した児の状態を含め,治療成績を毎年日本産科婦人科学会へ報告する義務があります.御承知おき下さい.また,各種学会で治療成績等を発表しておりますが,報告ら発表の際に個人が特定されるようなものはありません.

[成績]
以下が当院での治療成績です.2014年の成績と,当院で体外受精による治療を開始した1996年からの成績がまとめられています.参考になさって下さい.

なお,日本産科婦人科学会倫理委員会 登録・調査小委員会報告によると,新鮮胚を用いた2012年の体外受精・胚移植等臨床実施成績は,以下です.
  1)妊娠率(胚移植あたり) 20.8%
       (採卵あたり)   7.2%
  2)流産率(妊娠あたり)  26.1%
  3)生産率(胚移植あたり) 14.0%

 当院での2012年の凍結胚移植の成績は 
             212/424 50.0%の妊娠率
    (自然周期凍結胚移植68/122 55.7%  ホルモン補充周期凍結胚移植 144/302 47.7%)
なお,日本産科婦人科学会倫理委員会 登録・調査小委員会報告によると,凍結胚を移植した2012年臨床実施成績は,以下です.
  1)妊娠率(胚移植あたり) 33.7%
  2)流産率(妊娠あたり)  25.8%
  3)生産率(胚移植あたり) 22.9%

一口メモ 4 妊娠 マイナートラブル1
妊娠悪阻
 妊娠悪阻とはいわゆる"つわり"のことで,英語ではmorning sicknessなどといいます.妊娠初期の変化として現れる消化器症状,胃腸症状で,吐気・嘔吐・食欲不振・嗜好の変化などがあります.特に空腹時に著明なことが多いです.
 妊娠悪阻は,妊婦さんの50-80%におきるとされ,妊娠5-6週頃におき,妊娠12-16週頃までには自然になくなっていきます(中には妊娠の最後までつわりがあるという方も希にはいます).妊娠初期の体におきる様々な急激な変化に対する消化器系を中心とした適応が円滑に行かない一時的な状態と考えていいのではないかと思われます.
 一般的に,内分泌系の変化(妊娠反応のもとの胎盤から作られる HSG ヒト絨毛性ゴナドトロピンなど)や,代謝系の変化,精神的な要因などに妊娠悪阻の原因を求めていることが多いようです.しかし,発症する時期から考えて胎児の心臓の拍動が始まったときからつわりはおきていると推測されます.超音波検査上は妊娠6週0日よりはじめて胎児心拍の確認ができますが,実際には妊娠5週の半ば頃から心臓の拍動ははじまっています.胎児の血液と母親の血液の交流はないように一般的には思われていますが,胎児の血液と母親の血液は交流しており,胎児心拍がはじまったことにより胎児成分が母親に流れ込み,そのいわゆる免疫寛容が働かないために胃腸症状がでると考えられます.腎臓移植や肝臓移植の際におきてくる,拒絶反応というものを皆さんは知っていると思います.これと同じように軽い免疫的な拒絶反応が悪阻という症状ではないかと考えています.
 症状は,いわゆる胃腸症状ですが,その進行により4期に分けることができます.第1期は悪心嘔吐がつづき,食物摂取量が低下し体重減少などの症状が現れてくるけれど,血液検査上は異常がないという状態をいいます.第2期は第1期の症状に加えて嘔吐が続き,胃液をどんどんはいてしまうため(胃液は強い酸性の液体です)体の中の電解質成分が低下し,低ナトリウム血症などの血液検査上の異常も加わります(代謝性アルカローシス).体がアルカリ性になりそれを呼吸で調整するために呼吸が浅く不規則になるなどの症状が加わります.第3期は食物がとれないので,体のエネルギーとなる糖質が不足し,このエネルギー源を体のタンパク質や脂肪から得るようになるために,通常は体の中にはでてこないケトン体など(よく,つわりで病院に来るとオシッコをとって下さいといって検査しているものです)が尿中にでてくるようになります(脂肪の代謝産物です).こうなると今度は体が酸性に傾き(代謝性アシドーシス)ます.水分の摂取も不足し,体は脱水傾向が著明になり,体重減少も著明になります.第4期は,脱水の進行により,血液の濃縮状態がさらに進み末梢循環不全や血栓症をおこしやすくなります.また,ビタミン不足などが加わり,脳神経症状(意識障害や不随意運動など)が現れてきます.こうなるとたとえ回復したとしても後遺症を残すことがあります.つわりといって馬鹿にしてはいけません.
 治療は,水分の補給と,吐き気を止めること,それからビタミン不足を補うことです.当院ではつわりの患者さんには点滴で水分補給と吐き気止めの薬を使用しています.また,食物の摂取が全くできない方にはビタミンも補給しています.当院で使用している薬に催奇形性はありませんし,赤ちゃんには全く影響を与えませんので,心配なく治療をうけていただいて構いません.現在,抗癌剤治療に併用されている制吐剤(セロトニンの拮抗剤)は大変強力でつわりに対してもすばらしい治療効果を発揮すると考えられますが,まだ安全性は全く定まっていないので,時期尚早かなとは思います.当院では滅多にありませんが,つわりは妊娠によって生じているものです.このため妊娠を中断することが一番の根本的な治療になり,中絶が治療法になります.

一口メモ 5  妊娠 マイナートラブル2
子宮外妊娠
 子宮外妊娠とは,正常では子宮の内腔に中に受精卵が着床するところが,子宮内腔以外のところに受精卵が着床し成長してしまう場合の妊娠をいいます.着床部位(受精卵がくっつくところ)の違いにより,子宮外妊娠は以下の5種類に分類されます.

1)卵管妊娠 i)卵管峡部妊娠
       ii)卵管膨大部妊娠
      iii)卵管采部妊娠
2)間質部妊娠
3)頚管部妊娠
4)卵巣妊娠
5)腹膜妊娠(腹腔妊娠)

 私は外来で,まだ子宮外妊娠の可能性も否定できません.とよく言っていますが,聞いた方も多いと思います.どうして子宮外妊娠にこだわるのでしょうか?それは,子宮外妊娠では,発見が遅れると卵管破裂などをおこして,腹腔内に大量の出血を来してしまうからなのです.このため,血圧も下がり意識もなくなった状態で病院にかつぎ込まれ,緊急の開腹手術が必要になる場合があります.最悪死まで至る可能性もあります.子宮外妊娠の場所によっては子宮を摘出しなければならなくなってしまうこともあります.このため,妊娠していても子宮外妊娠の可能性にはいつも注意を向けていなければならないのです.今から20年前なら瀕死の重症の子宮外妊娠患者さんを助けたということは称賛に値しましたが,現在では症状がおきる前に子宮外妊娠を発見できない医者ははっきりいってヤブです(かくいう私も症状がおきて初めて診断がついたケースもあります).症状がでる前の状態で治療を終了させるのが現在の正統な医療です.
 子宮外妊娠の初期の症状は,生理痛とは異なる下腹部の痛みと不正出血です.子宮外妊娠では腹腔妊娠で生児を得た症例も報告はされていますが,通常生児を得ることは100%不可能です.卵管破裂などで激烈な腹痛やショックなどがおきる前に診断して治療することが肝要です.  当院では,超音波検査と血液検査によって診断をおこなっています.

治療方法
子宮外妊娠は着床部位,子宮外妊娠の種類によって異なります.

1)卵管妊娠
卵管妊娠の場合には,挙児希望があるか否かによって治療方針は異なります.治療方法は以下の3つになります.どの方法が一番いいのかは確かにケースバイケースで異なります.しかし,体外受精OKならば開腹の手術療法が一番いいと考えています.が,財前先生も番組の中で説明義務を怠ったといって裁判に負けていたので当院で可能な治療方法をすべて説明いたします.

a)手術療法(腹腔下手術を含む)
 挙児希望があり,体外受精をしてもいいと考えている方は,摘出手術がもっともお勧めです.それも卵管を根本から完全に摘出してしまう方法がbestです.卵管を部分的に切除する方法では,体外受精を行ってもまた子宮外妊娠になってしまう場合があります.最近腹腔鏡下手術が大流行です.しかし,腹腔鏡下手術はお腹の3ヶ所の傷が残り,結構目立ったものになります.また,習熟している医師が行っても手術時間は長くかかります.当院では手術療法の場合には基本的に下腹部横切開で行っています(約7cm程の切開創).真皮縫合で丁寧に皮膚縫合を行っている上に部位的に隠れてしまう傷になります.腹腔鏡下手術に比べて手術時間は短く傷も目立ちません.また,10本の指が使えるので,より丁寧な手術ができます.私は腹腔鏡下手術に一応習熟しており100例以上の症例経験がありますが,それでも開腹手術の方がbetterと考えています.
 同じ手術療法でも保存手術といって卵管をとらないで,子宮外妊娠の部分のみをとるという方法もあります.いろいろな方法がありますが,卵管を切開して子宮外妊娠部分を摘出し,その後卵管を細い糸で縫合するというのが一般的です.この他に局所的に血管収縮物質を注射して子宮外妊娠部分を押し出してしまうという方法もあります.しかし,体外受精を全く考えていない,体外受精は絶対にしたくないという方は別ですが,再度子宮外妊娠をおこす可能性が高く残るので,あまりおすすめではありません.
 挙児希望がない方は,上述のどの術手技でも構いません.

b)MTX(メトトレキサートという名前の抗癌剤)の局注
 子宮外妊娠をおこしている部位に局所的にMTXを直接注入して妊娠中断を図るという方法です.当院では経膣的に針を差し局所に注入しています.子宮外妊娠の部位が正確に特定でき,手術をすることがいやな方にはいい方法です(お腹に傷は付きません).MTXという抗癌剤は絨毛にはよく効く薬でこの治療方法(抗癌剤を注入するという)では,現時点では一番いい薬です.しかし,一回だけではダメで最低でも4-5回ぐらいは行わないと効果が出ません.また,この治療で子宮外妊娠が終息に向かわない場合には手術が必要です.入院期間が長くなるというデメリットがあります.また,脱毛などの副作用がでることもあります.しかし投与量がそれほど多いわけではないので,一般的な抗癌剤使用のような白血球が減少して感染をおこしやすくなるとか,血小板が下がって出血傾向が現れるようなことはありません.MTXを全身投与して治療をおこなっている施設もありませがこれは感心しません.

C)アルコールの局注
 子宮外妊娠をおこしている部位にMTXのかわりにアルコールを直接注入して妊娠中断を図るという方法です.MTXと異なり,いわゆる抗癌剤特有の上述の副作用はありません.しかし,一回だけではダメで最低でも5-6回ぐらいは行わないと効果が出ません.また,MTX同様,この治療で子宮外妊娠が終息に向かわない場合には手術が必要です.入院期間が長くなるというデメリットがあります.MTXょりは効力がやや弱い印象があります.

d)塩化カリウム(KCl)の局注
 上述のMTXの変わりにKClを局所に注入して胎児心拍を止め保存的に治療するという方法です.現在まで1人の患者さんにしかおこなったことはない方法ですが,うまくいきました.その後の注意深いfollow upが必要ですし,血腫を作った卵管にトラブルが起き,手術が必要になることも充分考えられます.MTXを使えない手術をしたくないという患者さんだけの治療方法と考えます.

2)間質部妊娠
 これはMTXの局所投与法がbestです.手術療法もできますが子宮の角を一部削って取らなければなりません.妊娠している子宮は大変柔らかく糸で縛っても子宮の方が千切れてしまうことが多々あります.最悪子宮摘出術をおこなわないと出血が止められないことがあります.挙児希望がないのなら子宮全摘術も選択肢になります.

3)頚管部妊娠
 これも,MTXの局所投与をおこなってから,掻爬手術をする治療方法がbestです.子宮内妊娠の場合には内容物を出しても子宮が収縮するため止血が図られ問題はおきませんが,頸管部分は収縮しないので止血不能な大出血をおこします.上記間質部妊娠と同様,最悪子宮を全摘しないと止血できなくなってしまう場合があります.しかし、妊娠の初期の段階で処置すればほとんど副作用がなく治療を完了可能となるため,早く診断することが肝要です.

4)卵巣妊娠
 基本的には手術療法です.

5)腹膜妊娠(腹腔妊娠)
 腹膜妊娠は滅多にありませんが,その診断は極めて難しいものです.このため診断がついたときには妊娠週数がかなりいってしまっている場合がほとんどです.前述のように子宮内妊娠では中断あるいは終了後子宮が収縮してくれるために止血が図られますが,腹膜は収縮しません.このため中断にせよ終了にせよ胎盤を剥離してしまうと,100%止血不能な出血で命取りになってしまいます.治療はKCLとMTXを併用して妊娠を中断して,診断がついた時点がかなり遅いのであれば,胎盤の勢いが無くなってから手術療法を追加する,診断がついた時点が早いのであれば,そのまま吸収されるのを待つという治療法がいいと考えられます.

 子宮外妊娠となってしまった患者さんには大変残念なのですが今回の妊娠は諦めてもらう以外にありません.はやく治療をして,次の妊娠に向かっていただくしかありません.しかし,子宮外妊娠でも妊娠するということは妊孕性があることの証明であって,次回の妊娠も期待ができます.実際,当院で不妊治療をおこない子宮外妊娠になってしまった患者さんは,次の機会,あるいは次の次の機会に妊娠しお子さんに恵まれている方がほとんどです.頑張って下さい!

一口メモ 6  妊娠 マイナートラブル3
切迫流産
 切迫流産とは,流産が切迫している状態,いいかえれば流産してしまいそうな状態,流産になってしまうかもしれない状態です.症状は22週以上になると早産と定義されているので,22週未満がまず条件になりますが,22週未満の妊婦さんで不正性器出血があるあるいは子宮の収縮感がある場合に診断されます.症状の重い軽いの程度の差はありますが,妊婦さんの約25%に認められる,よくみかける疾患です.
 妊娠中の不正出血には色々な原因があります.この切迫流産は代表ですが,このほかに完全流産(進行流産),子宮外妊娠,子宮頸管ポリープ,子宮頚癌などがあります.この中で一番に除外しなければならない疾患は子宮外妊娠ですが,子宮内に胎嚢と呼ばれる袋が確実に認められれば完全に除外できます.また子宮頚癌もやっかいな合併症ですが,子宮頸部の細胞診,いわゆる癌検診を行い異常なければ除外できます.
 切迫流産の原因は胎盤のもとになる絨毛の子宮壁からの多少の剥離ですが,進行流産になってしまう場合(あるいは不正子宮出血を伴わない稽留流産や早期の子宮内胎児死亡)は胎児の異常が原因となります.また妊娠12週をすぎたぐらいから診断された切迫流産は,10週未満の胎児に問題がある切迫流産と異なって,膣内感染から子宮内感染(卵膜感染)がおきてきた場合や,子宮頸管無力症といって子宮の出口が自然に開いてきてしまう場合が多くなります.  子宮外妊娠などの他の疾患が除外された場合,一番心配なのは完全流産(進行流産)になってしまうかか否かです.
 治療は安静を保つことが一番です.さらに,週数が早ければ黄体ホルモンなどを補ってあげたり,止血剤も投与します.子宮の収縮感,腹部の収縮痛があれば,子宮の収縮抑制剤を用いることも大切です.また,週数が進んでからの子宮頸管無力症にはシロッカーの手術(子宮頸管部分を縛る手術,下半身麻酔が必要になります.)が必要です.週数が早い場合には前述のように胎児の異常が多くの原因です.原則として入院安静が一番ですが,胎児に異常があった場合には何をしてもどんなに大切にしてあげても流産になってしまいます.ですから,私は初期の切迫流産の患者さんには基本的に入院安静加療を勧めますが,どんなに手をかけてあげてもダメな場合はダメだし,どんなにいい加減にやっていようが保つ場合は保つのが真理なので,入院していなくて完全流産(進行流産)になってしまっても,しょうがないと諦められるのなら自宅で構わないし,あとで入院していればよかったと後悔すると思うなら入院した方がいいと勧めています.