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不妊治療について

着床前診断

16. 着床前診断
 最近,着床前診断という方法が,世間でも話題になってきています.しかし,一般の方は着床前診断とは何をおこなうもので,どういうありがたみがあるのかわからないまま,言葉だけが一人歩きをしている場合も多いのではないでしょうか.

1)着床前診断とは
 着床前診断とは,読んで字のごとく着床の前に行う診断,産まれてくる赤ちゃんに異常がないか否か妊娠する前の段階,受精卵の段階で診断を行うというものです.現在も出生前診断といって生まれてくる前の段階で診断は行われています.もちろん通常の妊婦検診で行っている超音波検査も一つの出生前診断になります.超音波で赤ちゃんを観察し構造異常,形態異常がないか調べています.しかし,一般的に出生前診断というと,妊娠15週くらいに母親の子宮に針を刺して赤ちゃんの周りを取りまいている羊水を吸引して,その羊水中に浮遊している赤ちゃんの皮膚の剥脱細胞で検査する羊水検査と,10週ぐらいに胎盤になっていく絨毛部分にカテーテルを挿入し,胎児の絨毛を採取して調べる絨毛検査の2つをいいます.この二つの検査は検体を採取する際に母親に負担がかかること,および検査による流産の危険があること,そして一番の肉体的精神的負担は,もし異常があった際には中絶を行わなくてはならないことです(羊水検査なりをするということは,異常があったら中絶したいという御両親の希望があるということです).絨毛検査ではまだ,早い段階で中絶が行えますが,羊水検査では胎動を母親が自覚している段階での中絶になりより負担は大きなものになります.(この出生前診断では染色体検査をする場合が主ですが,検査の結果が判明するまでに3週間程度の期間が必要になります.絨毛検査の方が単純に考えれば良いと思われるかもしれませんが,検体を取る際の負担は羊水検査より大きく,流産の危険性も10倍以上高いのが現実です.また,絨毛検査によると考えられる児の先天的な異常がおきる場合があり,現在は羊水検査の方が勝ると考えられています.)そこで登場するのが,着床前診断なのです.妊娠する前に診断して異常な受精卵は母親の子宮に戻さないようにすれば,検査の範囲で異常な子供は産まれてこないわけです.中絶という大きなに肉体的精神的負担がかかりません.しかし,体外受精はなかなか子供ができないカップルのための方法ですが,着床前診断を行う受精卵を得るために,通常なら必要ない体外受精が必要になります.

2)方法
 体外受精をおこない得られた受精卵の3日目の段階(通常は8分割卵,8細胞(割球といいますが)になっています)で8つの細胞のうち1つないし2つを取り出して,その1つ(ないし2つ)の細胞のみで検査を行います.FISH(染色体の一部分のみを蛍光標識して調べる方法)を行い染色体異常の有無を調べます.またその1つの細胞のDNAをPCR法で増幅して遺伝子の異常がないか調べます.割球を抜き取られたday3胚はその後培養を続け胚盤胞stageとして異常がなかったものを母親の子宮に戻します.

3)着床前診断で何を検査するのか
 着床前診断で行う検査内容は,羊水検査で行っている内容と同じものです.一つは染色体異常.ダウン症などの異常がないか調べることが可能です.また,遺伝子病といって遺伝子の一部が違う遺伝子に置き換わったために起こる病気も調べることが可能です(ヒトゲノム上には30,000-40,000の遺伝子がありますが,このうちのたった一つの異常によって起こる病気も多数あります).しかし,着床前診断には羊水検査では行えない強い一つの適応があります.それは流産しない受精卵か否かというものです.両親のいずれかに転座といって染色体の一部分が千切れて他の染色体にくっついている異常がある場合は,よい適応になります.また,体外受精の妊娠率を上げるため異常な受精卵をスクリーニングして異常のない受精卵だけ戻すということも可能になります.

 しかし,以上に述べたことは現実と理想が混ざっています.現実を見つめたとき実際には,そう何でも検査できるというわけではありません.まず,染色体異常ですが,全部の46本の染色体を調べることはできません(羊水検査や絨毛検査ではすべての染色体を調べることが可能です).Cmparative genomic hybridizationという全部の染色体を調べる方法もありますが,恐ろしく手間がかかり,なかなか簡単にはできません.より簡単なものは上に述べたFISHという方法(これもそんなに簡単というわけではないのですが)ですが,一度に検査できる染色体が最大5種類と限られてしまいます.理論上7回FISHを繰り返せば全部の染色体は調べられますが(現実1つの細胞で7回のFISHを繰り返すのは奇跡に近いものがあります),それでも調べることのできた染色体の100%構造異常を持っていないかは調べられません.FISHで検査可能な現実はダウン症などのターゲットがしっかり絞られている染色体異常と,親が転座などの染色体異常を持っていて流産を繰り返してしまう場合の転座に関して異常のない受精卵のセレクトです.
 ここで,勘違いしてはいけないのは,着床前診断をして異常なしとした受精卵を母親の子宮内に戻した場合,まず第一に,すべて妊娠するわけではないという点です.第2に,妊娠しても流産しないわけではないという点です.着床前診断を行えた受精卵を戻しても妊娠率は30%弱で,必ず妊娠するわけではありません.また,体外受精の妊娠率を上げるために異常のない受精卵をセレクトした場合でも,海外論文で年齢がいっているカップルの受精卵をスクリーニング検査した結果が調べられていますが,確かに流産率は低くなるものの,妊娠率はあまり変わらないのが現状です.また,着床善診断で検査できる染色体は限られているいるため,調べられなかった染色体異常で流産が起きることはさけられないことなのです.

 次に,遺伝子異常については,性染色体にのっていて,男児にだけ発症する遺伝子異常の病気は,当然遺伝子病ですが上記のFISHで男女の区別ができます.女児のみ選べば保因者にはなりますが発症はしないので,これはよい適応です.しかし常染色体にのっている異常でおきる遺伝子病は大変い難しいのが現実です.1つの細胞のみから得られたDNAを増幅して遺伝子診断をしなければならないため,少しのミスが大きく結果に影響してしまう可能性が高いという弱点です.羊水検査で得られる細胞は多数あるわけで,当然得られるDNA量も着床前診断とは比較になりません.PCRで増幅しなくても診断可能になります.PCRで何回も増幅した場合,一番最初にほんの少しだけ混入していたものも大きく増幅されてしまい結果に異常をもたらしてしまう可能性があるわけです.このため,遺伝子病に関しては着床前診断をした後,妊娠に成功すれば必ず羊水検査も行い再確認が必要になります.