個々に合わせた検査と治療
一般的に、まず検査をしてから、タイミング合わせをして妊娠しなければ、飲み薬の排卵誘発剤による治療、注射による排卵誘発治療、人工授精。これでも駄目なら体外受精と治療内容が変わっていくといわれています。不妊関係の本にもよく書いてありますし、先の有名な先生が出席されていた講演会でも同じ様なことを言っていました。しかし、これは全く違います。
系統的に基本的な検査をすることは必要です。当院では月経周期に合わせて、基本的なホルモン検査、子宮卵管造影検査、超音波検査などを行ないます。また、念のため子宮頚癌検診も行ないます。よく不妊検査として行なわれている月経血培養は、現代においては意味がありません。高温相の7日目に行なう子宮内膜日付診も、ただ患者さんが痛いおもいをするだけで、治療方針を決める上では何の役にも立ちませんので(学問的には意味はあるのですが)、当院では行なっておりません。
上記の検査で異常が認められた場合には、この治療を行ない、妊娠に適した状態にします。
ここで話はそれますが、妊娠するための方法について考えてみましょう。私がいつも不妊治療の説明会で話をしていることですが、昔話のように竹を切ったり、川から桃を拾って帰っても子供は生まれません。仏教を信じ毎日念仏を唱えたり、キリストに帰依しお祈りを捧げていても、やはり妊娠はしません。妊娠するためには精子と卵子が出会う必要があります。
(1)排卵日に性交渉を持つか、(2)人工授精といって精子を子宮の中に入れる方法を用いるか、(3)あるいは精子と卵子を取り出して体外受精(ART 補助的生殖技術)をするかの3種類の方法しかありません。
「子宮筋腫ができているから取りましょう」とか「卵管が通じていないから手術して治しましょう」と言われることはよくありますが、手術は直接妊娠するための方法ではなく、あくまで妊娠しやすくするためのサポートの手段です。
排卵日の性交渉と人工授精の違い
まず、妊娠するための、前述の(1)と(2)、2つの方法を比較してみましょう。排卵日に性交渉を持つ方法と人工授精では、どこが違うのでしょうか。大きな違いがあるように世間ではいわれていますが、違いは頚管粘液というバリアーの前に精子がくるか、頚管粘液の後ろに精子を入れるかという点のみです。
子宮頚管部分には、排卵日になると頚管粘液といって卵の白身に似た粘液が増えてきます。この粘液は精子にとっては大変居心地のいいところで、性状の良い頚管粘液中では、精子は3〜4日間でも生き続けます。この粘液の前の膣内に精液が放出されるのが、通常の性交渉です。そして、この粘液を越えて精子を子宮内に人工的に入れ込むのが人工授精です。ですから、性交後検査(排卵日に性交渉を持っていただき、頚管粘液の中に精子が入り込んでいるか否かを検査する方法)の結果で判断は違ってきます。
検査結果が大変良好で、精子がたくさん頚管粘液の中に入り込んでいる場合には、人工授精は全く役に立ちません。たくさんの精子が自力で頚管粘液を通り抜けて、子宮内に入っているわけですから。一方、性交後検査の結果が不良、精子が頚管粘液の中にあまり認められない方の場合には、人工授精は有効な方法です。
人工授精には個々それぞれ、このような適応があります。タイミング法で妊娠しなければ誰彼構わず、次のステップは人工授精とはなりません。前述の繰り返しになりますが、人工授精は性交後検査の結果が良くなかった患者さんのみの適応です。性交後検査の結果が大変良かった患者さんは、人工授精をしてもなんら治療のためのステップアップにも改善にもなりません。また、精液は精子だけでなくいろいろな夾雑物を含んでいます。(通常は頚管粘液の中を通り抜けることにより、夾雑物は膣の中に取り置かれ、運動能力の高い精子のみが子宮の中に入ります)そのために、精液をきれいに分離せずに人工授精をするならば、子宮の中に汚染物質を人工的に入れ込むことになり、かえって害をもたらします。ある意味、百害あって一利なし、という結果になりかねません。
それでは、性交後検査の結果が良かった患者さんは、次に何をすればいいのでしょうか。不妊期間が短い方の場合には、タイミング法を引き続き行なっていけばいいのです。しかし不妊期間が長い方の場合には、残された方法はあと一つしかないことになります。上述の説明を読んでいただければわかると思いますが、妊娠しうる3つの方法の中で前者2つの方法が駄目ということですから、体外受精の選択しかありません。
排卵誘発方法
次に排卵誘発方法を考えてみましょう。排卵誘発剤には内服薬と注射薬があります。
内服薬は目に見える副作用も小さく、大変に使いやすいものです。ですから医者によっては誘発剤を使うことが不妊治療だと勘違いしている人もいます。自力で排卵がおきない患者さんには確かに有効です。しかし、この薬「クロミッド」については、その作用機序ゆえに排卵期のおりもの(頚管粘液)の量を減らしてしまい、さらに子宮内膜の増殖を抑えてしまいます。頚管粘液が悪くなれば、性交後検査の結果が良かった人でも、精子は自力で子宮の中に入れなくなってしまいます。
また、子宮内膜が悪くなれば着床しにくい状態になってしまいます。このために、自力で排卵がある患者さんの場合、クロミッドを使用することによって、かえって不妊を増長する結果になってしまう場合があります。クロミッドは大きな副作用もなく、大変に良い薬です。ですが、誰彼構わず有効なのではなく、自力で排卵がうまくいかない人のみに有効な薬だということを知っておいてください。
一方、注射薬の排卵誘発剤には、クロミッドのような妊娠しにくくしてしまうというマイナスはありません。しかし、大きな副作用を伴います。いわゆる卵巣過剰刺激症候群というものです。入院治療が必要になったり、きちんと治療していれば死亡の原因になるようなものではありませんが、管理が悪いと数年前、新潟で報告されたように死亡原因になることもあります。こういったことからも内服薬で排卵しない人、内服薬で妊娠しない人には大変有効な薬ですが、適応を考えて注意深く使用する必要があります。
以上のように、排卵誘発剤の使用と人工授精、体外受精は同列に論じられる不妊治療方法ではありません。それぞれが独立した適応をもった、独立した治療方法であることを認識していなければなりません。まとめると以下のようになります。

以上を参考にして、当院での治療指針をご理解ください。

