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不妊治療について  ー 原因となる疾患

子宮筋腫

子宮筋腫とは、子宮の筋肉のなかの平滑筋からなる、良性の腫瘍です。正常の子宮筋を圧排する形で発育していきます。
正確な重量は忘れましたが、摘出したら重量が70Kg位あったという子宮筋腫の報告もあります。しかし、あくまで良性腫瘍で、どんなに大きくなってもまわりを圧排して成長するだけで、悪性腫瘍(癌、肉腫)のように他の組織に浸潤していったり、転移したりすることはありません。

子宮筋腫の成因については、まだはっきりしたことはわかっていませんが、お母さんの子宮の中にいる胎生期といわれる時期に、胎児の子宮にその萌芽が宿ると考えられています。すなわち、子宮が形成されていく過程で子宮筋腫の細胞の芽はでき、生まれたときすでに子宮筋腫になる要素をもっているのではないかと考えられています。この芽が性成熟期に女性ホルモンの影響を受けて、大きくなって症状を現してくるものが、治療が必要な子宮筋腫というわけです。

前述のように、成因が子宮が形成されていく過程の細胞分裂異常に基づいているものなのか、その他の理由によるものなのかはわかりません。しかし子宮筋腫の増殖、増大を引き起こす原因は、女性ホルモン、エストロジェンであることは確かです。エストロジェンは、排卵過程で卵巣(卵胞)より分泌される、命の泉ともいうべきホルモンです(当院の表看板にも示してあります)。更年期障害の治療薬として有名で、自律神経失調、高脂血症、動脈硬化、老人性痴呆など防ぐ効果がありますが、子宮筋腫や子宮内膜症などの悪化の原因にもなります。ですから、排卵がおきなくなった更年期の方には、治療が必要な子宮筋腫があることはほとんどありません。

報告によっていろいろですが、頻度は、出産可能な性成熟期の女性で約50%程度に存在するのではないかと考えられます。また最近の報告では、摘出された子宮において顕微鏡で同定された極小の子宮筋腫も含めると、70%強の頻度があったというものもあります。しかし治療が必要な患者さんは、子宮筋腫がある方の20〜30%程度と考えられます。
子宮筋腫の種類は、筋腫のできる部位で粘膜下筋腫、筋層内筋腫、漿膜下筋腫の3つに分類されます。




症状

上記からもわかっていただけると思いますが、筋腫がある方すべてに症状があるわけではありません。



1. 月経時の異常

まず、過多月経、過長月経といって、月経の量が増える、長引いて切れが悪くなるという症状があります。月経時の痛み、いわゆる生理痛は子宮筋腫の典型的な症状ではありませんが、できている部位によっては、この症状が強くでる方もいます。
また、筋腫分娩といって子宮内腔に吊り下がるようにできた筋腫が、子宮の外に押し出される場合があります。このとき強烈な生理痛とともに、まるで血管が切れたかのように真っ赤な鮮血が大量にでる場合があります。



2. 圧迫症状

筋腫の増大に基づく症状です。まず下腹部に重い感じ、あるいは腫瘤感を覚えます。人によっては、自分でお腹の上から腫瘤を触ることもできます。
また、膀胱が圧迫されることで頻尿になることもあります。希ではありますが、尿が溜まったときに子宮を後方に倒れ込ませ、膀胱の下側に押し込められることがあります。このことによって、大きな筋腫が下から尿道を圧迫して尿閉、尿意があるけれども全くでない状態になってしまう場合があります。
あまり多くはありませんが、この他に、直腸が圧迫されると便秘傾向になる場合もあります。さらに、ごくごく希ではありますが、大きくなって骨盤内を占拠するようになった場合に、坐骨神経を圧迫して足にしびれが起きてくることもあります。



3. 妊娠に合併している場合

正常の子宮筋肉が赤ちゃんの成長に伴って引き延ばされていく速度と、筋腫が妊娠に伴って大きくなっていく速度は全く違います。このため、子宮から筋腫に血液供給を行なっている血管が、途絶してしまうことがあります。筋腫は血液が供給されなくなり、組織が壊死してしまうことになります。これを変性といいますが、ひどい痛みが出てきます。
この変化は、正常の妊娠経過中にも起きることがあります。特に多いのは、子宮が劇的に変化するお産直後や、流産の処置の直後などです。正常の妊娠経過中に起きた時には、そこから出る痛み物質が子宮の収縮を促し、流産の引き金になることもあります。



4. 筋腫が変性した場合

上述の妊娠中の変化で、子宮の変性が起きることがほとんどです。しかしこの他にも、スプレキュアなどによる筋腫の治療中に起きることも報告されています。
変性を起こした場合、それとともに激しい痛みが起きますが、いったん症状が治まった後は、痛みもなく落ち着いてしまう場合と、生理の時であろうとなかろうとずっと下腹部の痛みに悩まされる場合があります。



5. その他

筋腫は不妊の原因ではありませんが、できる部位によって不妊の原因になることもあります。特に粘膜下筋腫では原因になります。
この他に、月経の量が増えるために貧血が起きます。最悪の場合には貧血がひどくなり、心不全の状態になることもあります。
これとは反対に、エリスロポエチンといって、赤血球を増産する物質が産生される場合があります。この場合には多血症といって血液が濃くなりすぎたり、赤ら顔になってくることがあります。小さな筋腫では起きませんが、大きなものでは可能性があります。




治療方法

子宮筋腫の増大を起こし、症状を悪化させるものは女性ホルモン(エストロジェン)です。このため子宮筋腫の治療方法は、子宮内膜症の治療と全く同じ方法がいくつもあります。また、同様に、出産を希望されるかどうかで治療内容は異なります。



○妊娠・出産を望まない場合

基本的には、症状が軽くなるのであれば、どんな治療を行なっても構いません。



1. 対症療法

子宮筋腫に伴ういろいろな場面での痛みに対して、鎮痛剤を用いて様子を見るという方法です。鎮痛剤で痛みが軽減し、様子が見られるようであれば、この治療方法で充分です。



2. ホルモン療法

子宮筋腫の症状に過多月経、過長月経があります。この軽減にホルモン療法が有効です。



a)ピル

通常の月経では、基礎体温の低温相で分泌される女性ホルモンが、子宮内膜を増殖させます。その後、排卵後(基礎体温の高温相)に分泌される黄体ホルモンが分化させます。ですから女性ホルモンが単独で働かないようにすれば、子宮内膜の増殖が押さえられ、子宮筋腫でも月経の出血量は少なくなります。
まず最初のステップとしてのホルモン療法は、ピルを服用するという方法です。ピルには、女性ホルモンと黄体ホルモンが含まれています。女性ホルモンが単独では働かないため、内膜の増殖が抑制され、治療効果を発揮します。月経が開始してからすぐにピルを内服し始めれば、出血は止まり、過長月経もなくなります。

ピルにもいろいろな種類があります。一相性といわれる、女性ホルモンと黄体ホルモンの配合率が服用しているあいだ変化のないタイプのものでないといけません。
副作用は、内服初期に感じる気持ち悪さです。しかし、服用を続けていれば吐き気はおさまってきますので、ひどくなければ服用の継続は可能だと思います。どうしても我慢できないという方は、別の治療方法の選択になります。
また、体調が良くなるという方もいて、このような場合には注意していないと体重が大幅に増加してしまいます。食事に気をつけましょう。稀に、肝臓の機能の悪化もあるので、ときどき血液検査をする必要があります。また、ピルはタバコとの併用で、血栓症の危険性が増すことが証明されています。喫煙されている方は、この治療方法は選択できません。



b)Gn-RHアナログ/Gn-RH analogue

Gn-RH analogueには、5種類あります。(1)毎日、鼻にスプレーするナサニール、(2)スプレキュア、(3)一月に一回だけ注射をすればいいというリュープリン、(4)スプレキュアMP、(5)ゴセレリンです。

この薬は下垂体というホルモンの中枢の器官に働いて、卵を大きくするためのFSH、LHというホルモンを完全に抑えます。このため卵は大きくならず、卵の周辺より分泌される女性ホルモンが抑えられるので、子宮筋腫は増大しません。また、子宮筋腫によっては、かなり縮小するものもあります。いわゆる更年期に入った状態と同じにすると考えていただければ、わかりやすいと思います。
また、月経はストップしていますので過多月経、過長月経、月経痛などの症状に悩まされることはなくなります。高い薬だけあって大変に効果のいいものです。しかし、更年期状態に入り込ませるため、のぽせをはじめとした更年期障害が現れます。

女性ホルモンには月経をこさせるだけの機能があるのではなく、骨粗鬆症を予防したり、高脂血症、動脈硬化、老人性痴呆の予防など、命の泉ともいうべき作用をもったホルモンです。ですからこのGn-RH analogue治療を若いときから長期にわたって行なえば、子宮筋腫は良くなったが、寿命が短くなってしまったということにもなりかねません。
このため、長期にわたるGn-RH analogue療法は、単独で行なうべきではありません。add-back療法といい、Gn-RH analogueにプレマリンなどの女性ホルモンを少し補充してあげる療法が推奨されています。女性ホルモンを、子宮筋腫を悪化させるレベルよりは低く、更年期障害、骨粗鬆症などの予防がはかれるだけのレベルに設定してあげるわけです。また、女性ホルモン単独では、乳癌や子宮体癌の発生頻度が高くなることが知られていますので、黄体ホルモンも少し補充します。

しかし、あくまでもGn-RH analogue療法は、その場しのぎの治療の域を出ません。縮小した子宮筋腫も治療をやめれば2〜3カ月でもとの大きさに戻り、増大の時間の節約をしただけのことになってしまいます。また、子宮筋腫によっては縮小すると述べましたが、急激な縮小を起こす場合、妊娠子宮とは全く反対の機序で筋腫への血流が途絶えてしまうことがあります。筋腫の変性を起こし、かなりの痛みが発生することがあるのです。また稀ではありますが、粘膜下筋腫といって子宮内膜の直下にある子宮筋腫は、この治療を行なうことにより子宮内膜の欠損をおこし、表面に潰瘍を作り、大量の子宮出血を来すという報告があります。

このGn-RH analogue療法は、更年期が近くて手術療法はどうしても嫌だという方には、よい治療方法だと思います。しかし、まだ若い方の場合には、単独でこの治療方法を行なうことは時間の無駄使いであると思います。この治療方法と手術療法を組み合わせるのが有効だと考えます。



c)大量黄体ホルモン療法

日本ではあまり行なわれていません。また、保険適応もありませんが、出産を望まず、Gn-RH analogue療法が合わなかった人には有効であると考えられます。
子宮筋腫の治療は、要は女性ホルモンを抑えればいいわけです。このため子宮内膜癌の治療で用いられる、ヒスロンHという高容量の黄体ホルモン薬で、治療の効果がでます。



3. 手術療法
a)子宮筋腫核出術(保存的手術)

基本的には、妊娠・出産を希望される方に行なう手術方法です。子宮筋腫部分だけを摘出し、妊孕性を温存します。



b)根治的手術

他の子宮疾患と変わりありません。単純子宮全摘術といって、子宮を切除します。
当院では膣式の手術がほとんどです。最近世間では、腹腔鏡補助下膣式子宮全摘術(LAVTH)が大流行の時代になっていますが、腹腔鏡操作を必要とするということは、お腹に2、3箇所の傷が付くことを意味します。膣からの操作だけで手術ができるのなら、その方がより良いに決まっています。回復は早く、希望によっては術後1週間で退院が可能です。

当院では院長の卓越した技量に加えて、ハーモニックスカルペル(超音波メス)やリガシュアーなどの最新の手術器械を駆使して手術を行なっています。それらによって、従来は膣式の手術が禁忌といわれていた鵞卵大以上の大きさの筋腫や、多少癒着があるケース、未経産婦の筋腫など多くの患者さんに手術を行なうことが可能となりました。しかし、腹腔内ではげしい癒着をしているケースは、開腹して手術するという腹式手術を選択しています。



○妊娠・出産を望まれる場合

大前提として、子宮筋腫そのものは不妊症の原因にはなりません。しかし筋腫のできている部位によって、原因になることもあります。とにかく早く妊娠することが一番の治療方法ですが、子宮筋腫は流産の原因にもなることもあります。次の二つがある場合には、治療は手術療法がいいでしょう。子宮筋腫が原因で不妊症と考えられる場合と、子宮筋腫による重い症状がある場合です。
手術療法を選択しない場合、生理の時の痛みは対症的に鎮痛剤で、過多月経は止血剤で様子を見ていただくほかはありません。

Gn-RH analogueをはじめとしたホルモン療法は、時間の無駄遣いにしかなりません。なぜなら、ホルモン療法は排卵をなくして効果を求めているわけで、排卵がなければ妊娠はしません。ですから、不妊治療と子宮筋腫のホルモン療法は、同時期には両立しません。前述のように、治療している間はいいのですが、筋腫の増大にストップがかかり現状維持が図られるだけで、治療終了後は治療終了前と全く同じ状態です。この意味で、無駄な時間を費やし、年齢だけを重ねてしまう結果になります。

一般論として、不妊症の患者さんが手術の選択をされる際には注意が必要です。確かに、手術により原疾患は治療ができます。しかし手術をすることによって、新たな癒着が必ず起きてしまいます。注意していない場合はもちろんのこと、よく注意して手術を行なっても癒着は起きてしまいます。手術療法を選択したことにより、新たな不妊の原因を背負い込むことにもなります。
体外受精による治療も選択肢にはいっている患者さんにとっては、手術療法はよい選択になります。手術療法を行なったあと、ある程度の期間待っても妊娠しなければ、体外受精に切り替えることができます。しかし絶対に体外受精は嫌だという患者さんは、原疾患と再度天秤に掛けて、よく考える必要があります。

さて、子宮筋腫の手術療法に話を戻します。出産の希望があるわけですから、子宮は残さなければなりません。筋腫核出術という術式が選択されます。当院では過去に、一人から100個以上の筋腫を取ったこともあります。この術式を受けた方は、筋腫を取り出した部位により、妊娠した場合には必ず帝王切開でないとリスクが高くなる(子宮破裂を起こす)場合があります。必ず担当の医師に、帝王切開が必要か不必要かの確認を行なっておきましょう。また、核出術を行なっても再発してきて、再度手術が必要になることもあります。