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不妊治療について  ー 原因となる疾患

子宮筋腫

3.子宮筋腫
a)子宮筋腫とは
 子宮筋腫とは子宮の筋肉のなかにできる平滑筋からなる良性の腫瘍で,正常の子宮筋を圧排する形で発育していくものです.正確な重量は忘れましたが,摘出したら重量が70Kg位あったという巨大子宮筋腫の報告もあります.しかし,あくまで良性腫瘍で,どんなに大きくなってもまわりを圧排して成長するだけで,悪性腫瘍(癌,肉腫)のように他の組織に浸潤していったり,転移したりすることはありません.子宮筋腫の成因については,まだはっきりしたことはわかっていませんが,おかあさんの子宮の中にいる胎生期といわれる時期に,胎児の子宮にその萌芽が宿ると考えられています.すなわち,子宮が形成されていく過程の細胞分裂異常に基づいているものなのか,そのほかの理由によるものなのかわかりませんが,子宮が形成されていく過程で子宮筋腫の細胞の芽はでき,生まれたときにすでに子宮筋腫になる要素をもっているのではないかと考えられています.この芽が,性成熟期に女性ホルモンの影響を受けて大きくなっていって症状を現してくるものが,治療が必要な子宮筋腫というわけです.子宮筋腫の増殖,増大を引き起こす原因は,前述のように女性ホルモン,エストロジェンです.女性ホルモンは,排卵過程で卵巣(卵胞)より分泌されるもので,当院の表看板にもある命の泉とも言うべきホルモンです.更年期障害の治療薬として有名で,自立神経失調,高脂血症,動脈硬化,老人性痴呆など防ぐ効果がありますが,子宮筋腫や後述する子宮内膜症などの悪化の原因になります.ですから,排卵がおきなくなり,更年期に入られた御婦人には,治療が必要な子宮筋腫があることはほとんどありません.
 頻度は,報告によっていろいろですが,出産可能な性成熟期の女性で約50%程度に存在するのではないかと考えられます.また最近の報告では摘出された子宮において顕微鏡で同定された極小の子宮筋腫も含めると70%強の頻度あったというものもあります.しかし治療が必要な患者さんは子宮筋腫のある方の中の約20〜30%程度と考えられます.
 子宮筋腫の種類は,筋腫のできる部位で粘膜下筋腫,筋層内筋腫,漿膜下筋腫の3つに分類されます.

b)症状
 上記からもわかっていただけると思いますが,筋腫がある方のすべてに症状があるわけではありません.

1)月経時の異常
 まず,過多月経過長月経といって,月経の量が増える,長引いて切れが悪くなるという症状があります.月経時の痛みいわゆる生理痛は子宮筋腫の典型的な症状ではありませんが,できている部位によってはこの症状が強くでる方もいます.又,筋腫分娩といって子宮内腔に吊る下がるようにできた筋腫が子宮の外に押し出される場合には,強烈な生理痛とともにジャーといった感じにまるで血管が切れたかのように真っ赤な鮮血が大量にでる場合があります.

 2)圧迫症状
 筋腫の増大に基づく症状です.まず下腹部の重い感じあるいは腫瘤感を感じます.人によっては自分でお腹の上から腫瘤をさわることもできます.また,膀胱が圧迫されることで頻尿になることもあります.希ではありますがおしっこがたまったときに,膀胱により子宮が後方に倒れ込まされ膀胱の下側に押し込めることがあって,大きな筋腫が下から尿道を圧迫して尿閉,おしっこをしたいんだけれど全くでない状態になってしまう場合があります.この他に,直腸が圧迫されるとあまり多くはありませんが便秘傾向になる場合もあります.さらに極々希ではありますが,大きくなって骨盤内を占拠するようになった場合に坐骨神経を圧迫して足にしびれがおきてくることもあります.

3)妊娠に合併している場合
 妊娠に筋腫が合併している場合,正常の子宮筋肉が赤ちゃんの成長に伴って引き延ばされて大きくなっていく速度と筋腫が妊娠に伴って大きくなっていく速度がまるで違うため,正常の子宮から筋腫に血液供給をおこなっている血管が途絶してしまうことがあります.このため筋腫は血液が供給されなくなるわけで,組織が壊死といって死んでしまうことになります.これを変性といいますが,ひどい痛みが出できます.正常の妊娠経過中にもこの変化は起きることがありますが,特に子宮が劇的に変化するお産直後や流産の処置の直後などにおきる場合が多いです.正常の妊娠経過中におきた時には,そこからでる痛み物質が,子宮の収縮を促し,流産の引き金になることもあります.

4)筋腫が変性した場合
 上述の妊娠中の変化で子宮の変性がおきることがほとんどです.しかしこの他にもスプレキュアなどによる筋腫の治療中におきることも報告されています.変性を起こした場合それとともに激しい痛みがおきますが,いったん症状がおさまった後は,痛みもなく落ち着いてしまう場合と,生理の時であろうとなかろうとずっと下腹部の痛みに悩まされる場合があります.

5)その他
 筋腫は不妊の原因ではありませんが,できる部位によって不妊の原因になることもあります.特に粘膜下筋腫では原因になります.この他に月経の量が増えるために貧血がおきます.最悪の場合には貧血がひどくなり心不全の状態になることもあります.これとは反対に,小さな筋腫ではおきませんが,大きなものではエリスロポエチンといって赤血球を増産する物質が産生される場合があります.この場合には多血症といって血液が濃くなりすぎたり,赤ら顔になってくることがあります.

c)治療
 子宮筋腫の増大をおこし症状を悪化させるものは女性ホルモン(エストロジェン)です.このため,子宮筋腫の治療方法は後述の子宮内膜症の治療と全く同じ方法がいくつもあります.また,同様に,挙児希望,子供がほしいかどうかで治療内容は異なります.


挙児希望がない場合

 基本的には,症状が軽くなるのであれば,どんな治療をおこなっても構いません.

1.対症療法 
 子宮筋腫に伴ういろいろな場面での痛みに対して,鎮痛剤を用いて様子を見るという方法です.鎮痛剤で痛みが軽減し様子が見られるようであれば,この治療方法で十分です.

2.ホルモン療法
 子宮筋腫の症状に過多月経,過長月経があります.この軽減にホルモン療法が有効です.

a)ピル
 通常の月経では基礎体温の低温相で分泌される女性ホルモンが子宮内膜を増殖させ,その後,排卵後(基礎体温の高温相)に分泌される黄体ホルモンが分化させます.ですから女性ホルモンが単独で働かないようにすれば子宮内膜の増殖が押さえられて子宮筋腫でも月経の出血量は少なくなります.まず最初のステップとしてのホルモン療法はピルを服用するという方法です.ピルには女性ホルモンと黄体ホルモンが含まれており,女性ホルモンが単独では働かないため内膜の増殖が抑制され治療効果を発揮します(ピルにもいろいろな種類があり,一相性といわれる女性ホルモンと黄体ホルモンの配合率が服用している間変化のないタイプのものでないとダメです).月経が開始してからすぐにピルを内服し始めれば,出血は止まり過長月経もなくなります.副作用は内服初期に感じる気持ち悪さです.しかし,服用を続けていれば吐き気はおさまってきますので,ひどい気持ち悪さでなければ服用の継続は可能だと思います.どうしても我慢できないという方は別の治療方法の選択になります.また,逆に体調が良くなるという方もいて,このような場合には注意していないと体重が大幅に増加してしまいます(食欲が非常に増してしまうため).食事に気をつけましょう.まれに,肝臓の機能の悪化もあるので時々血液検査をする必要があります.また,ピルはタバコとの併用で血栓症の危険性が増すことが証明されていますので,喫煙されている方はこの治療方法は選択できません.

b)Gn-RH analogue
 Gn-RH analogueには毎日鼻にスプレーするナファレリール(ナサニール)とブセレキュア(スプレキュア),一月に一回だけ注射をすればいいというリュープリン,スプレキュアMPとゴセレリンの5種類があります(すべて高価な薬です).この薬は下垂体というホルモンの中枢の器官に働いて,卵を大きくするためのFSH,LHというホルモンを完全に押さえます.このため卵は大きくならず,卵の周辺より分泌される女性ホルモンが抑えられるので子宮筋腫は増大しませんし,また,子宮筋腫によってはかなり縮小するものもあります.いわゆる更年期に入った状態と同じにすると考えていただければわかりやすいと思います.また,月経はストップしていますので過多月経,過長月経,月経痛などの症状に悩まされることはなくなります.高い薬だけあって大変に効果のいいものです.しかし,更年期状態に入り込ませるため,のぼせをはじめとした更年期障害が現れます.また,女性ホルモンには月経をこさせるだけの機能があるのではなく,骨粗鬆症を予防したり,高脂血症,動脈硬化,老人性痴呆の予防など命の泉ともいうべき作用をもったホルモンです.ですからこのGn-RH analogue治療を若いときから長期にわたっておこなえば,子宮筋腫はまあ良くなったが,寿命が短くなってしまったということにもなりかねません.

 このため,長期にわたるGn-RH analogue療法は単独で行うべきではなく,add-back療法といいGn-RH analogueにプレマリンなどの女性ホルモンを少し補充してあげる療法が推奨されています.女性ホルモンを子宮筋腫を悪化させるレベルよりは低く,更年期障害,骨粗鬆症などの予防がはかれるだけのレベルに設定してあげるわけです.また,女性ホルモン単独では乳癌や子宮体癌の発生頻度が高くなることが知られていますので,黄体ホルモンも少し補充します.

 しかし,あくまでもGn-RH analogue療法はその場しのぎの治療の域を出ず,縮小した子宮筋腫も治療をやめれば2-3ヶ月でもとの大きさに戻り,増大の時間の節約をしただけのことになってしまいます.また,子宮筋腫によっては縮小すると述べましたが,急激な縮小をおこす場合,妊娠子宮とは全く反対の機序で筋腫への血流が途絶え筋腫の変性をおこし,かなりな痛みが発生することがあります.また,まれではありますが,粘膜下筋腫といって子宮内膜の直下にある子宮筋腫はこの治療を行うことにより子宮内膜の欠損をおこし表面に潰瘍を作り大量の子宮出血を来すという報告があります.

 このGn-RH analogue療法は更年期が近くて手術療法はどうしてもいやだという方にはよい治療方法だと思います.しかし,まだ若い方の場合にはこの治療方法と手術療法を組み合わせるのなら有効だと考えますが,単独でこの治療方法を行うことは時間の無駄使いであると思います.

c)大量黄体ホルモン療法
 日本ではあまり行われていません.また,保険適応もありませんが,挙児希望がなく,Gn-RH analogue療法があわなかった人には有効であると考えられます.子宮筋腫の治療は,要は女性ホルモンを押さえればいいわけです.このため子宮内膜癌の治療で用いられるヒスロンHという高容量の黄体ホルモン薬で治療効果がでます.

3.手術療法
a)子宮筋腫核出術(保存的手術)
 基本的には挙児希望がある方におこなう手術方法です.子宮筋腫部分だけと摘出し,妊孕性を温存します.

b)根治的手術
 他の子宮疾患とかわりありません.単純子宮全摘術といって子宮を切除します.当院では膣式の手術がほとんどです.最近世間では腹腔鏡補助下膣式子宮全摘術(LAVTH)が大流行の時代になっていますが,腹腔鏡操作を必要するということはお腹に2-3箇所の傷が付くことを意味します.膣からの操作だけで手術ができるのならその方がbetterに決まっています.回復は早く希望によっては術後1週間で退院が可能です.当院では院長の卓越した技量に加えて,ハーモニックスカルペル(超音波メス)やリガシュアーなどの最新の手術機械を駆使して手術を行っていることもあり,従来は膣式の手術が禁忌といわれていた鵞卵大以上の大きさの筋腫や,多少癒着があるケース,未経産婦の筋腫など多くの患者さんに手術を行っています.しかし,腹腔内ではげしい癒着をしているケースは,お腹をあけて手術するという腹式手術を選択しています.

4.新しい治療法(当院ではできません)
a)子宮動脈塞栓術(UAE)
 子宮筋腫核を栄養している動脈に,血管をふさぐ物質を流し込み閉塞させて,子宮筋腫核を壊死させる(酸素が行かなくて局所的な組織が死んでしまう状態)という方法.放射線科で行う治療です.局所麻酔で血管の中にカテーテル(細い管)をいれ,筋腫を栄養している血管を見つけ,そこに血管閉塞物質を流します.侵襲は少なく,お腹を切る必要もありません.また,約90%程の効果が期待できます.しかし,術後,子宮筋腫が壊死に陥るため子宮にきつい疼痛が起きます(筋腫は壊死に陥り,それ以上大きくなりませんが,完全になくなるわけではありません).妊娠中によく起きる子宮筋腫の変性と全く同じことを人工的に行うわけで,上述の子宮筋腫の症状が起きるわけです.また多くはありませんが,子宮筋腫の栄養血管を閉塞させると同時に正常子宮筋にも血流の低下をもたらすため,その後の正常妊娠は難しくなる場合があります.卵巣機能も障害してしまい,治療後閉経になってしまったという報告もあります.この治療には保険の適応はありません.

b)集束超音波治療法(FUS)
 200個以上の発生源から出される超音波を子宮筋腫核に集中させ,通常超音波検査の3,000-5,000倍を集め,振動エネルギーを熱エネルーギーに換え,筋腫を焼灼,熱変性壊死させるという治療方法.体外から行う治療ですので,傷は全く付きませんし,侵襲がない方法です.しかし,術後の疼痛があります.また,この方法は筋腫核すべてを焼灼できるわけではなく,その中心部分を中心として焼灼するため,筋腫の外郭は残ります。このため20-30%に再発があるといわれています.巨大な筋腫や多発している筋腫は完全には治療できません.この治療方法にも保険適応はありません(50-100万円).


挙児希望がある場合

 大前提として,子宮筋腫そのものは不妊症の原因にはなりません.しかし筋腫のできている部位によって原因になることもあります.とにかく妊娠を早くすることが一番の治療方法ですが,子宮筋腫は流産の原因にもなることもあるので,挙児希望があり,子宮筋腫が原因で不妊症と考えられる場合と子宮筋腫による重い症状がある場合には,治療方法は手術療法がいいでしょう.手術療法を選択しない場合,生理の時の痛みは対症的に鎮痛剤で,過多月経は止血剤で様子を見ていただくほかはないです.Gn-RH analogueをはじめとしたホルモン療法は時間の無駄遣いにしかなりません.なぜなら,ホルモン療法は排卵を無くして効果を求めているわけで,排卵がなければ妊娠はしません.ですから,不妊治療と子宮筋腫のホルモン療法は同時期には両立しません.前述のように,治療している間はいいのですが,筋腫の増大にストップがかかり,現状維持が図られるだけで治療終了後は治療終了前と全く同じ状態です.この意味で,無駄な時間を費やし,年齢だけを重ねてしまう結果になります.

 一般論として,不妊症患者さんが手術の選択をされる際には注意が必要です.確かに手術により原疾患は治療ができますが,手術をすることによって,新たな癒着が必ずおきます.注意していない場合はもちろんのこと,よく注意して癒着をさせないような手術をおこなっても癒着はおきてしまいます.手術療法を選択したことにより,新たな不妊の原因を背負い込むことになります.このため,手術療法をおこなったあと,ある程度の期間待っても妊娠しなければ体外受精による治療も選択肢にはいっている患者さんにとっては,手術療法はよい選択になりますが,絶対に体外受精はいやだという患者さんは,原疾患と再度天秤に掛けてよく考える必要があります.

 さて,子宮筋腫の手術療法に話を戻します.
挙児希望があるわけですから子宮は残さなければなりません.筋腫核出術という術式が選択されます.当院では過去に一人から100個以上の筋腫をとったこともあります.この術式を受けた方は,筋腫を取り出した部位にもよりますが,その後妊娠した場合には必ず帝王切開でないとリスクが高くなる場合(子宮破裂を起こす)があります.このため,必ず手術を担当した医師に帝王切開が必要か不必要かの確認をおこなっておきましょう.また,核出術をおこなっても再発してきて再度手術が必要となることもあります.