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不妊治療について  ー 原因となる疾患

子宮内膜症

4.子宮内膜症
 a)子宮内膜症とは
 この病気は,不妊のおおきな一つの原因になります.
 子宮内膜症とは,子宮内膜と似た組織が,子宮の内腔以外の場所に発生し,その場所で月経周期を繰り返すという病気です.病変のある場所は,月経期には出血し,月経の前半期はまず出血が止まり(しかし,子宮内の内膜組織は月経期に膣の方に排出されますが,内膜症の場合には外には排出することができないので,その場所にたまり固まっていきます),その後,内膜に似た組織が増殖し病変部分が大きくなり,強固な癒着をつくります.また,卵巣に病変のある場合にはチョコレート嚢腫とよばれる嚢胞を作ります.さらに病変が進むと,正常な卵を侵蝕していきます.また,この病変から産生される物質が受精率を低下させているという報告もあります.月経がある間は病気は進行する一方です.以前は,子宮の筋層内に侵入したものを内性子宮内膜症,腹膜上であるとか卵巣に拡がったものを外性子宮内膜症と呼んでいましたが,現在は,前者を子宮腺筋症,後者を子宮内膜症といっています.原因は子宮腺筋症と子宮内膜症で異なります.子宮腺筋症の場合には,子宮の内膜組織が子宮の筋層内に滲みいるというか,月経の時などの子宮の収縮の圧力で筋層内に無理矢理ねじ込められることが原因となり,子宮の筋肉の中で出血と増殖を繰り返していきます.子宮内膜症(以前外性子宮内膜症と呼ばれていたもの)は2つの成因説があります.一つは移植説(転移説)といって,月経の際,月経血が卵管を通して逆流し腹腔内にこぼれ落ち,そこに生着して内膜症になるというものです.実際に月経期におなかの中をのぞいてみると血液がたくさんたまっているということはよく経験するところです.実験的にも子宮内膜症の発生が認められています.もう一つは化生説といって腹腔内の表面をおおっている腹膜が,炎症などの刺激を受けて変化して,子宮内膜に似た組織が発生してくるというものです.これも初期の変化をとらえた研究報告がなされています.実際のところは両者がそれぞれの原因になり,子宮内膜症になっていると考えられます.  症状としては,まず,第一に月経の時の痛み,いわゆる生理痛があります.また,過多月経といって生理の時の血液の量が増えます.さらに病変が進行すると,月経の時以外にも生理痛に似た鈍い痛みを常に感じるようになります.卵巣に子宮内膜症(チョコレート嚢腫)がある時には,そこを中心として腸の癒着が起きることがあり,腸が動くたびに卵巣の周辺に痛みを感じる場合もあります.子宮と直腸の間に病変があるときには,排便時に痛みがあったり,性交時に痛みがあり,性交をさける傾向がでることがあります.また,子供をほしいと希望している方にとって,子供ができにくいおおきな原因になります.

b)診断方法
 症状と,診察所見,血液検査(CA 125という卵巣癌の時の指標になる腫瘍マーカーが陽性になります),超音波検査,MRI検査(当院にはありません)などより診断します.しかし,確定診断は腹腔鏡検査や,開腹手術によってなされます.子宮内膜症の臨床進行度はごくごく初期の症状及び検査による異常がなくても,腹腔鏡検査など行うことによってはじめて診断がくだるビーチャム分類1度といわれているものから,骨盤内臓器(子宮,卵巣,卵管,直腸など)が全部一つに固まってしまい動きが全くなくなってしまう,ビーチャム分類4度といわれるものまであります.このようになると,診察しただけでも十二分に確定診断できます.診察医師によっては症状があるだけで"内膜症ですね."と診断する方もいます.生理痛はいろいろな原因で起きます.すべてが子宮内膜症で起きるわけではありません.

 臨床進行期(ビーチャム分類)
1度 検査による異常がなくても,腹腔鏡検査など行うことによってはじめて診断がくだるもの.腹腔内に5mm程度の内膜症の小斑点が認められる.
2度 子宮の周辺の靱帯および子宮表面に子宮内膜症病変が認められ,癒着が認められる.内診や超音波検査などで所見が認められる状態.
3度 2度に加えて卵巣が正常の2倍以上に腫大.
4度 骨盤内臓器(子宮,卵巣,卵管,膀胱,直腸など)が全部一つに固まってしまい動きが全くなくなってしまう状態.

c)治療方法
 子供をほしいという希望があるか否かで治療方針は大きく変わります.


挙児希望がない場合

基本的には,症状が軽くなるのであれば,どんな治療をおこなっても構いません.
1.対症療法 
 子宮内膜症に伴う症状に対して,鎮痛剤を用いて様子を見るという方法です.子宮内膜症の症状で問題になるのは,生理痛,痛みです.鎮痛剤で痛みが軽減し様子が見られるようであれば,この治療方法で十分です.

2.ホルモン療法
 ホルモン療法には色々あります.子宮内膜症は前号で説明したように,子宮内膜と似たような組織が子宮の内腔以外の場所で月経周期を繰り返すという病気で,女性ホルモンが悪化させます.

a)ピル
 通常の月経では基礎体温の低温相で分泌される女性ホルモンが子宮内膜を増殖させ,その後,排卵後(基礎体温の高温相)に分泌される黄体ホルモンが分化させます.ですから女性ホルモンが単独で働かないようにすれば子宮内膜の増殖が押さえられて子宮内膜症は悪化しなくなります.まず最初のステップとしてのホルモン療法はピルを服用するという方法です.ピルには女性ホルモンと黄体ホルモンが含まれており,女性ホルモンが単独では働かないため内膜の増殖が抑制され治療効果を発揮します.(ピルにもいろいろな種類があり,一相性といわれる女性ホルモンと黄体ホルモンの配合率が服用している間変化のないタイプのものでないとダメです.)子宮内膜症が無くても,生理の出血量がすごく多いという方(過多月経)や生理痛がひどいという方(月経困難症)も同様の理由からピルで症状の軽減がはかれます.副作用は内服初期に感じる気持ち悪さです.しかし,服用を続けていれば吐き気はおさまってきますので,ひどい気持ち悪さでなければ服用の継続は可能だと思います.どうしても我慢できないという方は別の治療方法の選択になります.また,体調が良くなるという方もいて,このような場合には注意していないと体重が大幅に増加してしまいます.食事に気をつけましょう.まれに,肝臓の機能の悪化もあるので時々血液検査をする必要があります.また,ピルはタバコとの併用で血栓症の危険性が増すことが証明されていますので,喫煙されている方はこの治療方法は選択できません.

b)ダナゾール療法
 ダナゾール(ボンゾール)は,内服薬で朝晩1錠ずつ服用します.これは,男性ホルモン用の働きをすることにより,女性ホルモンの産生を押さえ治療効果を現します.この結果当然,生理はとまります.また,最近では子宮内膜症病変に直接作用して発育を押さえる効果のあることもわかってきています.免疫抑制効果のあることもしれ,使用直後では妊娠率が上がるという報告もあります.しかし,長期の投与では,体重増加や痙瘡また男性化(ひげが濃くなるなど)などの副作用が起きます.また,肝臓障害が約20%に認められるため,定期的な血液検査でチェックする必要があります.子宮内膜症に有効な治療薬ということで次に述べるGn-RH analogueとの使い分けがポイントとなります.副作用がやや多い薬なので私はあまり好きではありませんが,やせた女性にはよい薬と考えています.

c)Gn-RH analogue
 Gn-RH analogueには毎日鼻にスプレーするナファレリール(ナサニール)とブセレキュア(スプレキュア),一月に一回だけ注射をすればいいというリュープリン,スプレキュアMPとゴセレリンの5種類があります(すべて高価な薬です).この薬は下垂体というホルモンの中枢の器官に働いて,卵を大きくするためのFSH,LHというホルモンを完全に押さえます.このため卵は大きくならず,卵の周辺より分泌される女性ホルモンが抑えられるので子宮内膜症は悪化しません.いわゆる更年期入った状態と同じにすると考えていただければわかりやすいと思います.臨床進行期ビーチャム分類1°,2°の方は長く使用していれば完治することもあります.しかし3°,4°の方は格段の改善は得られませんが,悪化はありませんし,月経はストップしていますので生理痛などの症状に悩まされることはなくなります.高い薬だけあって大変に効果のいい薬です.しかし,更年期状態に入り込ませるため,のぼせをはじめとした更年期障害が現れます.また,女性ホルモンには生理をこさせるだけの機能があるのではなく,骨粗鬆症を予防したり,高脂血症,動脈硬化,老人性痴呆の予防など命の泉ともいうべき作用をもったホルモンです.ですからこのGn-RH analogue治療を若いときから長期にわたっておこなえば,内膜症はまあ良くなったが,寿命が短くなってしまったということにもなりかねません.

 このため,長期にわたるGn-RH analogue療法は単独で行うべきではなく,add-back療法といいGn-RH analogueにプレマリンなどの女性ホルモンを少し補充してあげる療法が推奨されています.女性ホルモンを子宮内膜症を悪化させるレベルよりは低く,更年期障害,骨粗鬆症などの予防がはかれるだけのレベルに設定してあげるわけです.また,女性ホルモン単独では乳癌や子宮体癌の発生頻度が高くなることが知られていますので,黄体ホルモンも少し補充します.
 これは手術療法はどうしてもいやだという方にはよい治療方法だと思います.

d)大量黄体ホルモン療法
 日本ではあまり行われていません.また,保険適応もありませんが,挙児希望がなく,上述のダナゾール療法,Gn-RH analogue療法があわなかった人には有効であると考えられます.子宮内膜賞の治療は,要は女性ホルモンを押さえて子宮内膜の増殖を押さえればいいわけです.このため子宮内膜癌の治療で用いられるヒスロンHという高容量の黄体ホルモン薬で治療効果がでます.

3.チョコレート嚢腫に対して
 -経膣超音波ガイドチョコレート嚢腫穿刺吸引アルコール固定術-
 この方法は,挙児希望のある方に多く用いられる方法ですが,この方法とホルモン療法等を併用すれば,効果は上がります.基本的にこの方法は姑息的な方法で完治をめざしたものではありません.

 方法は静脈麻酔(点滴の中に痛み止めや眠くなる薬等を入れ麻酔をかける方法)をかけ,経膣的に超音波検査装置ガイドのもと針をチョコレート嚢腫にさして吸引し,その後アルコールを入れて治療効果を計るというものです.チョコレート嚢腫は嚢腫を裏打ちしている表面に子宮内膜症の病変があり,ここより血液がでて嚢腫にたまってだんだん大きくしていきます.アルコールには水分をとり脱水させる効果があるために,チョコレートを吸引した後に入れれば,裏打ちしている内膜症の細胞群が脱水し死んでしまうため治療効果が出るわけです.しかし内膜症病変は単層の上皮ではありませんし,一度の治療ですべてが治療効果を発揮するわけではありませんので,前述のようにあくまで姑息的な治療方法です.しかし,侵襲度はほとんどないため何回でもできますし,一時的な症状の軽減ははかれます.


4.手術療法
a)保存的手術
 基本的には挙児希望がある方におこなう手術方法です.しかし,後述のように,挙児希望の方に手術療法は禁忌ですので,当院ではおこなっておりません.

b)根治的手術
 他の子宮疾患とかわりありません.単純子宮全摘術といって子宮と卵巣を切除します.当院では膣式の手術が多いのですが,子宮内膜症の場合には腹腔内で癒着をしているケースがほとんどなのでお腹をあけて手術するという腹式手術が選択されやすいです.卵巣を両側ともに摘出せざる終えない場合は,術後,更年期障害が起きますのでホルモン補充療法をする必要がでてきます.また,子宮内膜症は一部分に限局した病変である可能性は低いので,手術療法の後にGn-RH analogue療法を付け加えた方が良い場合もあります.


挙児希望がある場合

 子供をもうけたいと希望されている場合は,今まで説明してきた場合と全く異なります.とにかく妊娠を早くすることが一番の治療方法です.重症の内膜症(ビーチャム分類3°,4°)だといわれている方は,体外受精も含めて早く治療を受けることが大切です.生理の時の痛みは対症的に鎮痛剤で様子を見ていただくほかはないです.大きなチョコレート嚢腫があって腹部の膨満感などを感じている方は,前述の経膣超音波ガイドチョコレート嚢腫穿刺吸引アルコール固定術をしてもかまいません.挙児希望が無い場合の治療方法にあるGn-RH analogueをはじめとしたホルモン療法は時間の無駄遣いにしかなりません.なぜなら,ホルモン療法は排卵を無くして効果を求めているわけで,排卵がなければ妊娠はしません.ですから,不妊治療と内膜症のホルモン療法は同時期には両立しません.前述のように,軽症のものでは完治を望めることもありますが,症状が進行したものでは治療している間はいいのですが,症状の進行にストップがかかり,現状維持が図られるだけで治療終了後は治療終了前と全く同じ状態です.この意味で,無駄時間を費やし,年齢だけを重ねてしまう結果になります.

 手術療法は禁忌,絶対におこなってはいけません.子宮内膜症の多くの方がチョコレート嚢腫を合併しています.手術をおこなうと,これを当然摘出,患部を削り健常部分を残そうとします.しかし,どうしても健常部分も削らないと患部は完全にとりきれません.このため卵巣を切り取る量がどうしても増えてしまい,残すことのできる部分が小さいものになってしまいます.このため手術をした後少しの間は排卵があっても,数年で排卵が無くなってしまうという結果になってしまいます.当院でのdonor-egg体外受精に関するマスコミ報道がされて全国から早発閉経になってしまった方々が多数来院されていますが,その内の多くの方が数年前にチョコレート嚢腫の手術の既往歴をもっておられます.手術をしたがために望めるはずの自分自身の子供を希望することがかなわなくなってしまいます.多くの医者はよかれと思って手術をしているのであって,悪いことをしている気は更々ないのですが,子宮内膜症の手術による功罪を知らないのです.かく言う私も15年前までは保存的な手術療法が一番いいと考えていました.しかし,術後すぐ妊娠する場合には問題は起きないのですが,なかなか妊娠しないケースや,他院で治療したケースなどを多く経験してこのような結論に達しています.再度繰り返しますが,手術は絶対にしてはなりません.子供が産まれてから根治的な治療はうけましょう.挙児希望のある子宮内膜症の患者さんは,どんな方策を講じてでもいいので,とにかく妊娠を早くすることが一番の治療方法です.

 なお,卵巣の子宮内膜症であるチョコレート嚢腫がある方の場合には,閉経後卵巣癌の発生母地になることが知られています.最低1年に1回は検診を受けていく必要があります.