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根津八紘コーナー

記者会見を終えて

11月25日(水)、代理出産を終えた母娘が、お顔を公開する形で記者会見に臨まれました。
この方々は生後1歳4ヶ月で子宮摘出術を受けた娘さんのために、今年五月に実母が代理出産で元気な男の子を出産なさったケースでした。
今回の決心をなさったのは、代理出産をされた先人達の努力に勇気付けられ、自分達もそのチャンスを得られたことに対する感謝と、子宮がなく辛い想いをしている人たちに一人ではないよと伝えたい、またこれから代理出産をされる方達を勇気づけたい、そして多くの人たちにこの事実を知ってほしいとの意があったからでした。
今まで国は生殖補助医療の進歩や当事者の現状を充分くみ上げないまま、最初から代理出産禁止ありきのように検討結果を出して来ました。2008年の4月16日に出された日本学術会議の報告書も、「代理出産原則禁止、一部施行可」というもので、その後は何の伸展もなく今日に至っています。
そもそも、国民の抱える問題を検討する時は、まず当事者の目線から問題を考え論議をスタートすべきではないかと思うのです。今回の代理出産の問題をたとえとするならば、子宮がない女性がどれくらい存在しているのか、今までどのように扱われて来たのか、代理出産を必要とする人達がどの位存在し、今何を望んでいるか、代理出産の抱える問題、代理出産でしか解決できないのか、解決できなければどのような代案を提示すべきか、代理出産をするとするならば、どのようにし、どのようなルールをつくるのが最も良いのか等々。このようなまず当事者ありきのスタンスで考えるのが、検討を委ねられた人達のすべきことではないかと私は思います。
しかし厚生科学審議会の方達も日本学術会議の皆さんも、当事者の話は全く参考程度しか聞こうとしませんでした。最も患者さんと接し、そして深く関わって来て居る私からも話を聞く機会は、一度だけでそれもたったの15分でしかありませんでした。
生まれながらにして子宮の無いロキタンスキー症候群の女性が4000〜5000人に一人、この国でも毎年100人余誕生していることや、子宮癌や様々な疾患で若い女性が子宮を失うケースも日常茶飯事存在していることを、患者サイドに立って外の委員の方に知らせなければならない立場の委員の方が、その役目を担ってくださらなかったことは、誠に残念でした。
現在、このような立場にある私も、一昔前までは、「代理出産までしなくても」というやや否定的な考えを持っていました。しかし、子宮の無い女性、子宮を失う女性の生の話を聞く度に、自分の勝手な思いを反省し、産婦人科医としてそのような女性達へのあるべき関わり様を考えるようになったのです。
私は医者になってから常に患者さん側に自分を置いて考えるようにして来ました。代理出産にしてもそうです。自分の妻が自分の子供がその立場にあったとしたらどうするか。私や家族が果たして代理出産を選択するかどうかは別として、人生の選択でそういう道も可能であるという範疇において考えたいと思うからです。
自由主義の中で、お互いが助け合いつつ幸福な人生を生きて行くのが私達の求める暖かい社会の姿であります。
母が子どもを産めない娘のために、自分が代わりに娘夫婦の子どもを産んであげたい。その気持ちが動機となり、娘夫婦のお子さんがこの世に誕生することができました。現在、そのお子さんを中心に笑顔の絶えない生活をなさっているそうです。
今回のこの報道を通じ、多くの方から患者さんや当院に対し励ましのお言葉を戴きました。この場を通じて厚く御礼申し上げます。
それに反して、マスコミに日本産科婦人科学会から出されたコメントが相変わらず会告に従うようにという内容に終始していたことは、誠に悲しいこととしか言いようがありません。医療が進歩している中で目の前の患者さんたちのために何が必要なのかを考え、時代に合わせて当事者や現場の声を聞き審議し、会告の見直しをしていくということを重視せず、ただ古い会告に従うことを優先するという論理のようです。
また国の方針に従うというのであれば、国に対しまず産婦人科医の集団が患者さんや現状にあった提案をしていってほしいと願います。また国も生殖補助医療の問題と患者さんがずっと放置されている現状に対し、前向きな対応をしていただけるよう切に願います。

今回のような母娘さんたちが、ご家族と一緒に幸せに包まれながら「この子には事実を伝えて、命を大切にできる子にまた感謝の心を忘れない子に育てていきたい」とおっしゃる姿を見る度、私はご家族の幸せを守るためにも代理出産をはじめとする生殖補助医療についてもう一度原点から考えてほしい、と願うのです。
どうか、代理出産だけでなく、子どもを産みたいと願う人たちが肯定され、安心して子どもを育てる事の出来る社会になるために、皆さん一人一人がこの問題について考えていただければと願います。
私もこれからも患者さん方の笑顔を求めて、命の続く限りこの仕事をし続けたいと思います。


諏訪マタニティークリニック院長
根津八紘